第十幕
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『さっき言っただろ。物忘れが酷いんじゃないか?そんなに歳変わらないくせに』
「しっかり覚えてる。お前の矛盾もな」
言うまで逃がさないというようにリヴァイはカイの方へと身体を向ける。それに対し、カイはリヴァイの目から逃げるように顔を逸らした。
「カイ、調査兵団に戻りたくないのかい?」
『戻ったところで使えないって言ってんだよ』
「なんでそう思うんだい?トロスト区の壁が開けられた時、カイは立体機動を使って巨人を倒したそうじゃないか」
『倒しただけだ。それだけ』
「他の奴らが出来ないことをカイはやってのけたんだよ?十分、カイは仕事をしたんだ」
『けど、それは調査兵団に戻る理由にはならない。憲兵からは上官命令を無視したって糾弾されてるんだろ?それが事実だ』
「それはエルヴィンがなんとかしてくれるさ。カイは壁の穴を塞ぐために尽力した。違うかい?」
『塞いだのは俺じゃないし。それに作戦をたてて実行したのは駐屯兵団だ。俺はそれにくっついて行っただけであって、一緒に頑張ったっていうわけじゃ……』
のらりくらりと話を逸らしていこうとするカイに苛立ちが募っていく。
「仲間の死体を見たくねぇとほざいていたやつが自ら巨人の前に出て行った。今回、どれだけの人間が死んだ?お前は見てたはずだ。その目で」
カイの顔が強ばる。巨人を倒していたということは、確実に駐屯兵団の人間が死んでいく様を見ていたはずだ。それなのに仲間の死体を見たくないから調査兵団に戻らないは無理がありすぎる。
内地に引っ込んで入ればいいと言ってもカイは安全な暮らしになど興味はないと跳ね除けて怒った。
調査兵団に戻らないことで得られるものといえば、内地での生活くらいだ。それすら望まないで一体何を望んでいるというのか。
「言え。お前は何を怖がってるんだ」
唇を噛み締めて俯く。ハンジに手を握られ、大丈夫だと慰められたカイは観念したように呟いた。
『……たくない』
「なんだ」
『お前らの……死体を見たくない』
「私たちの?」
『リヴァイたちが死ぬのを見たくない。それだけは嫌だ』
ぽたり、と水滴が落ちる。身を震わせながら泣くカイにリヴァイはハンジと顔を見合わせた。
「えっと……」
「俺たちの死体を見たくないから兵団に戻らないだと?」
『しょうがないだろ!?壁の外に出れば巨人と戦うのは必須だ!その度に仲間が食われて死んでいく。昨日笑いあってたやつが明日には居ない。そんなこと何度も何度も繰り返してきた。ずっと変わらずに居てくれるのはお前らだけなんだよ……でも、いつかは必ずその日が来る。それがいつ訪れるかなんて誰にも分からない。そんな日を怯えながら待つのはもう嫌だ』
「カイ……」
ボロボロと泣くカイにハンジは顔を歪める。背中を撫でて落ち着かせようとしてみるも、逆効果になったのかしゃくり上げてしまった。
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