第八幕
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作戦成功の煙弾が打ち上げられ、周りの兵士たちの歓声が響き渡る。
『ははっ……もう少しで終わるって……言っただろうが』
覚束無い足で屋根から降りた先、そこにはイアンの頭が転がっていた。首から下がどこにも見つからない。きっと巨人に飲み込まれたのだろう。
『これを見るのが嫌だから抜けたのに』
仲間の死体なんて二度と見たくなかった。死ぬなら自分の知らない場所で死んで欲しかった。出来ることなら巨人以外の死因で。
『お前は良き班長だった。お疲れ様』
見開いたままの目を閉じてやり、近くにいた兵士に声をかけてイアンの頭部を持ち帰るように頼んだ。
「エレン!アルミン!」
ミカサの声が聞こえ、そちらへと顔を向ける。座り込んだ状態で蒸発し始めているエレンの巨人。その足元にエレンを抱えたアルミンが二体の巨人に見下ろされていた。
あの位置からでは彼らは巨人を倒せない。
今動けるのは自分だけ。
ふらつく身体に鞭を打って巨人の元へと飛んだ。
『そいつらに手を出すな……!』
「カイ!!」
右側の巨人の項を削ぎ、もう片方の巨人も、と方向転換しようとしたとき、誰かが上から落ちてきた。
『あ……』
空にはためく緑のマント。そして白と青の翼。
その紋様にドクンッと心臓が跳ねる。
倒れていく巨人の背に乗る一人の男。そいつはゆっくりとカイの方を振り返った。
「おい」
『は、は……』
「何笑ってやがるてめえ」
『いや、だって……』
まさかこんなところで会うとは思わないじゃないか。
『久しぶりの再会がこれかぁ……』
もし自分が女だったら惚れている。確実に。
恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのを感じ、咄嗟に両手で顔を覆う。
かつての仲間に助けられるなんてどんな名場面だ。こんなの誰だって恋に落ちるだろう。
『なんかもったいないことしちゃったな。リコに譲ってやればよかったのかこれ』
「てめえ、さっきから一人でなにブツブツ言ってやがる。人の話を聞いてるのか」
『悪い。なんでもない。で?話って?』
顔を覆っていた手を退かして目の前に立つ男に視線を合わせる。
「……お前」
『なんだよ。ちゃんと話なら聞くから──』
「そのツラはなんだ……!」
『ツラ……?え、ツラ??』
人の顔を見て眉間のシワを深くするリヴァイに疑問符が飛び交う。
「今まで何してやがった!」
『今までって……そりゃ壁が開けられたから入ってきた巨人の相手を……って、リヴァイ?』
カイの足元にアンカーを飛ばしたリヴァイは勢いよくこちらへと飛んでくる。嫌な予感にカイは後退りしようと右足を下げるが、それよりも早くリヴァイに胸ぐらを掴まれた。
「憲兵に行ったはずだろうが。それなのにてめえその顔はなんだ!」
『だからさっきからなんなんだよ。人の顔に文句つけるとかお前、失礼すぎないか!?』
今までリヴァイに顔について何かを言われた記憶は無い。憲兵に入ってから、と言っているから暫く合わない間にリヴァイの中での自分の顔と今の顔が大きく違っているのだろうか。いや、たかが三年でそんなに変わるわけがない。
「チッ……憲兵に行かせたのが間違いだったか」
『さっきから何言ってんだよ。もう少し分かるように……』
じわりと喉奥が熱くなるのと同時にゾクッとした悪寒に襲われる。
身体が限界を訴えている。当然だ、もう無理だといっているのを抑え込んでここまで飛んできたのだから。
「おい、カイ!」
『悪い、ちょっと……今はお前の話聞いてらんない』
どさっと地面に座り込んで俯く。吐き気を感じて嘔吐くも何も出てこない。口の中に広がる胃液の独特な味とひりつく喉に涙が出てきてしまう。
「カイ!どうしたの!?」
ミカサが駆け寄ってくるのが聞こえるけどそれに答えている余裕なんてない。
「来るな」
薄れる意識の中、リヴァイとミカサが言い合っているのが微かに聞こえる。
『リ……ヴァ……』
ミカサに暴言吐いたら許さないからな。という思いを込めてリヴァイの手を掴む。それがまさか握り返されると思わなくて。
しっかりと手を掴まれたのを感じたあと、カイの意識はプツリと途絶えた。
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