第八幕
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『これでとりあえず一呼吸入れられるんじゃないか?』
「そのようだな……助かった、クラウン」
『仕事しただけだから礼はいらない。それよりミカサ。お前なんなんだ』
「え?何が」
『まだ訓練兵のはずだよな?』
「そうだけど」
『今の訓練兵団は実戦も取り入れてるとか?』
「何が言いたいの」
精鋭班にミカサを入れたのはカイの一声によるもの。だから、何かあった時の為にと確認していた。もし、手元をミスって巨人に食われそうになったらすぐに助けに入れるようにと。
それなのにミカサは周りの巨人どもを難なく倒しているではないか。訓練兵にしては動きが機敏すぎる。これまで壁の中でひっそりと生きてきた人間が出来るような動きでは無い。
『いや……なんかどっかの顔見知りを彷彿とさせるような動きだなと』
「知り合い?」
『調査兵団にいた時にな。よくつるんでた奴がいたんだよ。そいつに似てたから』
巨人に対して物怖じもせずに飛びかかり、正確に項を削ぎ落とすその様はリヴァイのようだ。ミカサを見ていて思わず懐かしさを感じて、口元が緩んでしまうほどに。
「……どんな人なの」
『うん?あー、んー……ちっさいよ』
「ちっさい?」
『そう。身長低いんだよな。こんくらい』
変わっていなければ、と付け加えながら鼻の高さの所へと手を上げる。
「小さい……」
『だろ?もし会ったとしても言うなよ?本人気にしてんのかは分かんねぇけど……気にしてない方がおかしいか。周りに居るやつ身長高いから』
エルヴィンはともかく、ハンジでさえリヴァイの身長を越している。あの二人とはよく一緒にいるからリヴァイは常に見下ろされている状態だった。そこに自分も加わってしまったため、よく足を蹴られていたのは良い思い出だ。
『良い奴なんだけど、いかんせん口が悪くてな』
「そんな人の近くにいたの?」
『壁外調査とかではそいつの班だったからなぁ』
リヴァイ班唯一の生き残り、なんて呼ばれた時もあった。調査に出る度に部下が死に、次の日には新しい人間が配属になる。どれだけ仲が良くなっても、次の日壁外調査では帰らない。そんな中でカイだけがリヴァイ班で生き残っていた。
そして抜けてしまったのだ。
『会ったら会ったで蹴り飛ばされそうだわ』
「近づかないで。その人に」
『え?』
「口が悪く、すぐに人を蹴るような人間の側にはいかないで」
ミカサが何故か怒っている。エレンを見捨てると言ったリコに向けられていた鋭利な眼光が今はカイへと飛ばされていた。
『え、そんな怒る?』
怒る理由が分からなくて首を傾げると、ミカサはグッと歯噛みしてそっぽ向いてしまった。
『ミカサ?おーい、どうした?』
「なんでもない」
『なんでもなくないだろ。そんな顔して。なんでそんな怒ってんだよ。見ろよ、イアンがビビってるだろ』
「待て、私を巻き込むな!」
ミカサの近くにいたイアンはまともにその目を見てしまっている。そのせいか冷や汗を垂らしながらカイとミカサのことを交互に見て、何とかしてくれと言わんばかりに顔を強ばらせていた。
『何にムカついたのか分かんないけど、ほら落ち着けって。エレンも岩を頑張って運んでるみたいだし』
「…………えっ」
『気づいてなかったか』
ずしん、と揺れる足元。
『あっち見てみ』
指さして教えると、ミカサは目を輝かせる。
民家の陰になってエレンは見えないが、運ばれている岩はしっかりと見えた。ゆっくりと、でも着実に穴へと向かって歩いてきている。
「エレン……!」
『上手く立て直したみたいだな』
こちらへとアルミンが飛んできている。その顔はとても誇らしげだった。
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