第八幕
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『ダメだったか』
「カイ!」
『ミカサ、一時撤退するぞ』
「でもエレンが!」
『今は無理だ。正気を……いやそもそも、エレンが自我を保って動いているのかも怪しい』
エレンが巨人化し、作戦実行の砲が撃たれた直後にエレンはミカサに向けて攻撃をした。
瞬時にミカサを抱えてその場から飛んだから良かったものの、エレンは確実にミカサを殺そうとしていた。
壁の上を走っていた時にミカサにしつこく声をかけられていてうんざりしていたのは知っているが、だからといって巨人化してからミカサに対してやり返すなんてことは考えないはず、だと思いたい。
『ミカサ、今度からはあまりエレンをからかわないほうが良いぞ?』
「からかってない」
『さっきエレンに声掛けてただろ。それで殴ってきたんじゃないのか?』
「そんなはず──」
そんなわけないと思いたいのはカイも同じだ。だが、こうして話している間にもエレンは再度こちらへと拳を振り上げてきている。
『すっげぇ怒ってんじゃん。ほら』
「エレン!さっきは……悪かった。私がしつこかった!」
『ほら、ミカサ謝ってるからもう許してやれよ。いつまでも気にしてたら女々しいぞ?』
二発目の攻撃を避け、エレンに声をかけてみるが反応は無い。
これは確実に意思がない状態だ。
ミカサがエレンに引っ付いて話しかけているのを横目に、カイはリコに話しかける。
『見ての通り無理そうだな』
「分かってたさ。こうなることくらい。あんただってそうだろ」
作戦失敗の砲を撃つリコに苦笑を漏らす。
『そりゃまあ。出来すぎても怖いだろ』
世の中、思った通りには動かないものだ。
自分の頭を殴りつけて力なく座り込むエレン。こうなってしまった以上、作戦の続行は不可。急ぎ撤退の指示を出さなくてはならない。
『その前にエレンをあそこから取り出さなきゃいけないのか』
先程見た時は項から出てきていた。となれば、今回も項から出てくるだろう。
『ミカサ、エレンを回収して一旦壁の上に……』
ふと、とある考えが頭をよぎる。エレンは巨人化したとき項から出てきていた。そして巨人の弱点とされている場所は項。
『いや、まさか』
冗談じゃない。これはきっとたまたまだ。
でなければ、これまで自分たちがしてきたことの意味が分からなくなってしまう。正義の概念が揺らぐ。
『……知らね。なんも考えてなかった。今、俺は何も知らない』
恐ろしい疑念を追い出すように頭を振る。今はこんなことを考えている場合では無い。早くここから離れなければ。
「イアン班長!前方から二体接近!十メートル級と六メートル級です」
「後方からも三体!十二メートル級と五メートル級がこちらに向かってきてます」
「イアン撤退するぞ!あのガキ、扉塞ぐどころじゃねぇよ」
「ああ、仕方ないがここに置いていこう」
リコの言葉にミカサが苛立った顔で振り返る。その間に入るようにカイは身を滑らした。
『さて、どうするか。エレンを引っ張り出すとなると、どう切ればいいのやら』
「カイ……」
『置いていけるわけないだろ。こんな所に』
見捨てる判断をした兵士たちに聞かせるようにカイは声を大にして言い放つ。
『それに一度の失敗で喚くなよ。お前らはこれまで生きてきて失敗した事ないのか?』
「一緒にするな!こいつには人類の明日が掛かっていた。私たちの失敗とエレン・イェーガーの失敗は違う!」
『それで?エレンが失敗したから見捨てるって?挽回の余地も残さずに?まあここから立て直すってのも無理に近いか』
「貴様、何が言いたい!」
『別に喧嘩しようっていうんじゃない。ただ……』
針のむしろの中で覚悟を決めたエレンの思いを無駄にはしたくなかった。
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