第七幕
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「お前が居てくれて助かったのう。わしだけじゃ説得力に欠ける」
『駐屯兵団が実験してましたって言ってもなぁ』
「元調査兵団の肩書きがここで光るとは」
『おっさんの言葉も中々だったと思うけど?ここで死んでくれなんて誰が言うよ』
手を取り合って生きていかねばならない人類が、互いに殺し合う未来になるかもしれない。それならば、宿敵である巨人によって死んだ方がマシだ。
ピクシスの言葉は兵士たちの活動力になった。彼らが四年前の件を知っているからというのもあるが。
「わしらの敵は人間では無い。巨人じゃ。いかなる理由があろうとも、中で殺し合いが起こるのは避けたい。お前も見たくないじゃろ」
『まあ……ね』
思い出したくない記憶が頭の中を駆け巡る。少ない食料を巡って争う人達と、内地で優雅に暮らす貴族ども。
ウォールマリアを奪還するという建前で口減らしを行ったことも。助けられたはずの命を何度も見殺しにしたこと。全てが脳裏に焼き付いている。
助けてくれと伸ばされた手を振り払うことしかできなかった自分がどれだけ罪深いか。
「お前だけが悪いわけじゃない。わしも、壁の中で生きる人類全員が背負うべき罪じゃ」
『生きてるだけで罪を背負うなんてどれだけ理不尽な世界だよ』
「わしらが生まれたこの世はそういうものじゃ。目を逸らしたくとも逸らせん」
『嫌な世界なことで』
穴を塞ぐのだと活気立つ人たちを見下ろす。街を奪還するのにどれだけの犠牲が伴うのだろうか。
そしてまた自分はどれだけの手を、味方を見殺しにするんだろう。
『うっ……』
「大丈夫か?」
せり上がってきた胃液に喉がひりつく。焼けるような痛みに呻き声を漏らすと、ピクシスが心配そうにこちらを見てきた。
『大丈夫。もう慣れた』
「前に会ったときより随分と顔色が悪いな。飯は食っとるんか」
『……食べてる』
「分かりやすい嘘じゃな」
『一食二食抜いたくらいで問題ないだろ。食っても吐き出すような人間に食べさせるより、子供らに分けた方がいい』
自分にはこれしか出来ないのだから。
「哀れじゃな。調査兵団であれだけの功績をあげた者がここまで落ちぶれるとは」
『嘲笑なら幾度となく受けてきたよ。それに功績なんていらない。屍の上に立って与えられる勲章なんて恐れ多くて受け取れないだろ』
誇れるものなんて何一つないと笑うカイにピクシスも同意を示すように笑った。
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