第七幕
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「憲兵になったのかよ」
『とりあえず?』
「なんだよ、とりあえずって」
『色々あったんだよ』
トロスト区の穴を塞ぐとエレンが決断したあと、ピクシスは作戦会議をすると言って部下と話し込み始めた。
その隙間時間にエレンから質問攻めをされているところ。
「なんで憲兵なんだ」
『成り行きで?憲兵でも駐屯兵団でもどっちでも良かったんだけど、憲兵の方が人手が足りないって言うから』
調査兵団を抜けられるのならどこでも良かった、なんて言ったら文句を言われそうだ。今話している時点で、エレンは調査兵団志望な気がするから。
「調査兵団に入ろうと思わなかったのかよ」
『あー……』
「まさか壁の外に行くのが嫌で憲兵になったんじゃねぇだろうな!?」
『待て待て待て!なんでそんなキレてんだよ』
カイの答えを聞かずにエレンは憤慨して掴みかかってくる。その手をやんわりと掴みつつ、なんて返そうかと考えを巡らせた。
「エレン、手を離して」
「でも!!」
「カイは元々憲兵だったわけじゃない」
「は?」
『ミカサ。本人が言ってないのにお前が言うのは違うぞ』
「……ごめんなさい」
「どういうことだよ……憲兵じゃなかったって」
こうなってしまったら仕方ない。エレンには関係ないと言って納得するやつではないのは分かっている。
『元は調査兵団だった。事情があって憲兵に移ってる』
「なんで抜けたんだ?」
『質問ばっかりだな……少しは他のことを考えようとは思わないのか』
なんでなんでを繰り返すエレンに段々と面倒くさくなってきた。これはまともに相手をしない方がいいかもしれない。適当に話を終わらせ、穴を塞ぐことだけを考えさせた方が良さそうだ。
「なんも言わなかったじゃねぇか。訓練兵になったときだって何も……!」
『言う必要はないだろ?』
カイの言葉にエレンはハッと目を見開く。そして怒りに満ちた目で睨んできた。
「なんでそんな大事なこと言わねぇんだよ!!」
『ええ!?そんな怒られんの!?』
「当たり前だろうが!急に居なくなってこっちがどれだけ心配したと思ってんだ!!」
『急にって……あ、エレンには言ってなかったか。エレンの母さんには言ってあったけど。暫く訓練兵団入るからエレンのお守り出来なくなるって』
「は、はぁ!?俺はそんなの一言も聞いてない!」
『エレンの母さんが言うの忘れてただけだろ。俺はちゃんと伝えてた』
なんなら父親の方も知ってたはずだ。訓練兵になると言った時、先生は驚いていたから。
『つかそんなに怒ることないだろ。訓練兵になったくらいで』
「くらいでってなんだよ!俺は……!!」
『なんだよ』
何かを言いかけてエレンは口ごもる。待ってみても言う気配はなく、カイはそんなエレンにため息をついた。
『訓練が終わったあとにちゃんと顔出しただろ』
「その後また居なくなったじゃねぇか」
『そりゃ兵団に入ったら仕事しなきゃいけないからな。家に行ってる暇なんてない』
胸ぐらを掴んだまま唸るエレンにミカサは呆れた顔、そしてアルミンは戸惑いの表情。そんな顔するくらいなら助けて欲しい。
『ほらこれで分かったろ?それにいつまでも子守りだって引っ付かれてもお前だって嫌だろうが』
「……ない」
『うん?』
「嫌じゃ……ない」
『は……』
グッと掴んでいた手が緩んだかと思えば、今度は縋るように服を握られる。
そこでああ、と思い出した。
『……悪かった。一人にして』
カイが訓練兵団に入ると言った時、エレンの母親は怒り狂っていた。カイの親を呼び出してまでキレ散らかしたのだ。
そんな人がエレンとミカサを訓練兵団に入れるわけが無い。
二人もカイと同じように喪ったのかもしれない。
『ごめんな』
じわりと胸元が湿っていく。震える頭にそっと手を添え、エレンが落ち着くのを待った。
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