第一幕
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『悪い。俺ちょっともう無理かもしれないわ』
「は?お前何言ってるんだ」
『そのまんまの意味。この任務が終わったら調査兵団抜けるから』
殺した巨人がゆっくり倒れていくのを眺めながらカイは呟く。
「調査兵団を抜けるだと?アイツが簡単に抜けさせると思ってるのか」
『さあ。ダメだと言われたら逃げるまでだけど』
「理由はなんだ」
『……言わなきゃダメか?』
言うまで逃がさないというように前を塞がれる。やれやれと首を振って観念したようにカイは口を開いた。
『殺しても殺してもまったく減らない巨人に、何度も行われる任務。その度にどれだけの仲間が死んでいった?』
巨人に食い殺される人間を見ても何も思わなくなってしまった。以前までなら早く助けねば、と動いていた身体が今ではもうビクともしない。あれは助からないと頭が見捨ててしまうのだ。
何度も伸ばした手は死体だけを掴んでいた。そのせいで壊れてしまったのかもしれない。
無駄な動きをするべきではないと判断してしまうほどに。
『もう疲れた。流石に見飽きたんだ』
「ここで逃げても変わらねぇ」
『そうだよ。でも、心を殺して巨人に立ち向かうか、それとも巨人に背を向けて生きるか。どちらもあまり変わらないように思えてきた』
結局変わらないんだ。どうしたって人類は巨人には勝てない。そんなの分かりきっていたことなのに。何度も胸に抱いた期待が無惨にもへし折られてきたというのに、カイたちはそれを見て見ぬふりをし続けてきた。でももうそれも限界だ。
疲れた。これ以上はさすがに無理だ。
誰かが死ぬのを黙って見ているのは今日で終わりにしたい。いつか訪れてしまうであろう悲劇から目を背けたい。
できれば。できれば彼も一緒に。
『お前も……いや、有り得ないな』
「は?」
『なんでもない。何を言っても聞かなさそうだから言わない。まあ精々しぶとく生きてくれ。俺はもう嫌だから』
不機嫌そうに顔を歪めている彼の肩にぽんと手を置く。こうして共に戦うのも今日で最後だ。
『いいか?他の奴らには優しくしろよ?』
「いなくなる人間に言われたくねぇ」
『それもそうだなぁ。でもお前俺と違って色んな奴に慕われてるじゃん』
「それはお前の方だろう」
『今はそうでもないよ』
人を助けるということをやめてしまったから。仲間からどう思われているのかは言われなくてもわかる。期待されていた分落胆も酷く、今ではカイの事を裏切り者と呼ぶものもいるのだ。
勝手に作り上げた理想を押し付けないで欲しい。生きたければ自分の力でどうにかしろと言えたなら。
『なあ、きっと俺が抜けたとしても変わらないんだよ』
「お前一人の力でどうにかなってたらこうはならねぇ」
眼下にあるのはいくつもの死体。巨人の胃液で溶けているため人だったことは確認できる。でも誰が誰かまでは判別出来ない。
『リヴァイ』
「なんだ」
『頼むから……お前はああならないでくれな』
切実な願い。調査兵団に身を置いている以上、避けられないこと。それでも願わずにはいられない。
黙り込むリヴァイにカイは背を向ける。その時、任務の終わりを告げる連絡が届いた。
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