第四幕
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「カイ、どうして黙っていたの?」
『え?何が?』
天井へと行く道中、ミカサに肩を掴まれて止められる。
ミカサが言いたいことは分かっているが、あえて素知らぬ態度をとった。
「調査兵団に入っていたなんて知らなかった」
『言ってなかったからな。そもそも、言えるタイミングなんて無かったろ』
こっちに来てからはゆっくり話なんて出来なかった。巨人がうろついているところで長話なんてしてたら命取りだ。それにミカサ自身、会話のできる状態ではなかったから。
「今じゃない。どうして手紙も何も送ってこなかったの」
『そういうことか』
「ブレンダさんが心配してた。どこの兵団に入ったのか分からないって」
『そりゃ言えるわけないだろ。兵団に志願したときだって散々喧嘩したんだから。そっから調査兵団に配属が決まりましたなんて言ったら何を言われたものか』
訓練兵の時は一切連絡を入れなかった。訓練に明け暮れる毎日で、そんな事をしている余裕が無かったというのもある。
訓練兵を卒業し、所属する場所が決まってからは親の顔さえ見ていない。たまに家の付近に寄ってはいたけど、自宅には帰らずにエレンの家へと行ってしまっていたのだ。
エレンの母親に何度も家に顔を出したらどうだと言われていたが、カイは最後まで行くことは無かった。
「分かってる。でも……」
『悪かったと思ってる。墓があればちゃんと謝りに行ってたよ』
「知ってたの……?」
『見に行った。ほら、ウォールマリア奪還作戦をやっただろ』
久しぶりに帰った家は跡形もなくなっていた。最初、家の場所が分からなかったくらいだ。
全て踏み潰され、残っていたのは残骸だけ。なんとか目印を見つけ、記憶を頼りに辿って行ったらそこは瓦礫の山になっていた。
仲間が引き止めるのを無視して瓦礫をどかした結果、押しつぶされた両親を見つけたのだ。人間にも巨人にも見つけられなかった二人は死んだ時のまま。重なり合っていた所からして、父親が母親を守ろうと覆いかぶさったのだろう。そしてそのまま崩れ落ちてきた屋根に潰され身動きが取れずに死んだ。
親が死んだというのに涙は出なかった。ただ呆然と眺めていただけで、なんの感情も湧いてこなかった。
そんなカイを守ろうとしてくれた仲間が一人死んだ。眼前で食い殺される瞬間を見てしまい、それが今でもトラウマとなっている。食事を口に運べない原因がそれだ。
そのあと、精神的に限界が来ていた事を理由に調査兵団を抜けた。
あそこから離れたら楽になると思ったのに、現実はそんなに甘くはなかった。
『見に行かなくとも分かってたことだったんだけどな。あれだけ探し回って見つからなかったんだから。それでも死体を見つけるまでは、と思ってたんだよ。なのに……見つけちゃったらもうどうしようもないだろ』
「カイ……」
『もう過ぎたことだからこの話はお終い。今は巨人を倒すことに集中すること』
先に行ったジャンたちはもう配置についている。カイたちも急がないとアルミンたちが乗っているリフトが降りてきてしまう。
「ごめんなさい。余計なことを言った」
『気にしなくていい。むしろ謝らないといけないのはこっちの方だ。気を遣わせて悪い』
きっとエレンの家に遊びに行っていた時から気にしてくれていたのだろう。じゃなきゃ、母親が心配していたなんて言葉は出てこない。
自分の代わりに母親の話し相手になっていてくれたのだ。
『ありがとな、ミカサ』
「私は何も……」
『母さんは嬉しかったと思うよ。ミカサが話し相手になってくれて』
再度礼を伝えると、ミカサは照れたようにマフラーに顔を埋めた。
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