第二十四幕
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「嫌……がらせ?」
『なんでもない。悪いけど、それには応えられないから』
自分でも驚くほど冷たい返事。リヴァイの時はとても辛かったのに。エレンの時はこんなにもさっぱりと言い切ってしまえる。それだけで二人に対する思いがどれだけ違うのかを実感した。
「カイにとっては嫌がらせなのかよ……」
『あー、待った。ほんとに嫌っていう意味じゃなくてだな』
「でも嫌じゃなければそんな言葉出てこないだろ……俺は本気なのに」
『いや、うん。それはそうなんだろうけど……』
まずい。これはまずい。面倒なことになりそうだ。思っていても言うべきではなかった。
恥ずかしさからかエレンの顔は真っ赤になっているし、ボロボロと泣き始めている。こんなときに誰か来ようものならカイがエレンを虐めているように見えてしまう。
『エレン、一回落ち着けって。ほら、さっき巨人化したから疲れてるだろ?一度座って──』
コンコン、と扉がノックされてヒュっと喉の奥で変な音が出た。
「エレン、休んでいるところ申し訳ないのだが少しいいか?」
扉の先から聞こえたのはエルヴィンの声。いつもは聞きたくないと思っている声なのに今は酷く安心した。
「エレン?」
『い、今開けるからちょっと待て!』
「カイも居るのか?」
エレンをベッドに座らせてからカイは扉へと近づく。ドアノブに手を掛けて回すと、向こう側から引っ張られた。
「ちょうど良かった。カイにも準備してもらいたい」
『準備?』
「ああ、ウォール・ローゼに巨人が現れた」
『は……壁を破られたってことですか!?』
「……まだ詳細は分からない。今、ミケが104期を連れて対応している」
『わかった。急いで準備します』
「カイ」
『何?』
「大丈夫なのか?」
『何が、ですか?』
何故か驚いているエルヴィンに首を傾げる。
「いや……久しぶりにその話し方をするものだから」
『え?』
話し方、と言われてハッと気づいた。
『うわ、マジかよ……クソハゲに……』
「ハゲてはいないが。ふむ……どうやらこちらでも一悶着あったようだな」
エレンとカイとの間に流れる空気を察したのか、エルヴィンは悩ましげな表情。
『とりあえず今は壁の確認だ。すぐに出るから』
「ああ、頼む」
『一つ頼みたいことがある』
「なんだ?」
『俺が出るから、その代わりリヴァイは表に出さないで欲しい』
「……最善は尽くそう」
歯切れの悪い返事に顔をしかめる。
『エルヴィン』
「なるべく戦わせないつもりではいる。だが、ローゼ内に侵入した巨人の数が多ければやむを得ない」
『そこは何とかする』
だからやめて欲しいと頼み込むと、エルヴィンは暫し黙り込んだ末に小さく頷いた。
「わかった。だが、本人が出ると言ったらこの限りでは無いからな」
『そこは引き止めろよ……』
「だから言っただろう。最善は尽くすと。お前が出るとなったらリヴァイは休みなどしないさ」
『……あのばか』
嬉しいような苦しいような。昨日までであれば、部下だから気にかけてくれているのだと思っただろう。今はリヴァイの胸の内を知ってしまったから、単純に上官と部下という括りでないことを察してしまった。
「エレン、君も出れそうか?」
「あ……はい。準備します」
返事をしたエレンの声は涙声だ。それにエルヴィンが気づかないわけもなく、訝しげにカイを見つめる。
「泣かしてしまったのか」
エレンに聞こえないくらいの声量で問われる。
『泣かしたつもりは……』
断り方が雑だったのは自覚している。もう少しエレンを気遣った言い方をすればよかったのだが、それどころではなかったのだ。泣いているエレンに申し訳なく思いつつも振り返ることはしなかった。
「今はそっとしておいた方がいいだろう」
エルヴィンの言葉にこくりと頷く。
エレンに落ち着けるだけの時間を与えることは出来ない。だから出立準備の時くらいは一人にさせた方がいいだろう。
「カイ、作戦についての話がある。ついてきてくれ」
エルヴィンはわざとらしくカイを呼び出す。それに返事をして部屋を出ようとしたらエレンの声が聞こえた。
「カイ、」
『悪い、俺も準備しないといけないからまた後でな?』
「あっ……」
何か言いかけていたみたいだったが、エレンの言葉を聞く前に扉を閉めた。
「大丈夫そうか?」
『多分。その……助かった』
「これくらい大したことは無い。それより早めに仲直りするんだぞ?」
ぽん、と頭にエルヴィンの手が乗る。慰めようとして撫でようとしたのだろうけど、カイからしたら鳥肌モノだった。
『触んなクソハゲ変態野郎!』
「ゔっ!」
乗せられた手を叩き落とし、エルヴィンの脛を蹴りつける。
『調子に乗ってんじゃねぇよ』
「恩を仇で返す速度は一流だな……流石鳥だ。誰よりも素早い」
『次、その鳥ってやつを使ってみろ。お前、足が一本になるからな』
「ははっ……肝に銘じておこう」
ふん、と鼻を鳴らしてエルヴィンに背を向けた。
『ったく、なんなんだよ今日は』
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