第二十三幕
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『よっと……ここまで来ればあとは何とかなるだろ』
女型の周りを飛ぶのをやめてカイは地面へと降り立つ。こちらへと走ってきている巨人に口元を弛めた。
『ハンジ!』
「カイ!何をしているの!そんな所にいたら危ないじゃないか!」
『あいつは俺を踏み潰そうと片足を上げるはずだ!その瞬間を狙え!』
走り続けているやつの動きを止めるにはここにある罠だけでは少々頼りない。でも、一瞬でも動きを止めることが出来れば仕掛けは女型の肉に奥深く突き刺さるだろう。
「カイ!」
『大丈夫だって。お前らを信じてる』
相手に罠だとバレないようにカイは踏み潰されるギリギリまでその場にいなければならない。ガスが無くなって地上に降りたと思わせるために。
ハンジたちが女型を仕留めると信じるしかない。
近づいてきた女型はカイを見下ろす。そして右足を持ち上げてその場に静止した瞬間。
四方八方からワイヤーが放出される。いくつものアンカーが女型にまとわりつき、ギシッと軋む音が響いた。
女型の足はカイの頭上で止まっている、あと数秒遅ければ死んでいた。
『ほら、上手くいった』
「なにやってんですか!!クラウンさん!」
『うおっ、ジャン!』
女型の足の間をすり抜けて飛んできたジャンがカイの身体を持ち上げて近くの家の屋根の上へと飛び上がる。
「なんであんな危ないことしたんすか!」
『あれが一番確実だからなぁ。ほら、ちゃんと女型に罠がくい込んでるだろ?』
「だからって巨人を前にして地面に降りなくても!」
『そんなに怒るなって。もし間に合わなかったら間に合わなかったでちゃんと逃げるつもりでいたし』
キレ散らかしているジャンを宥めていると、アルミンも青ざめた顔でこちらへと飛んできた。
「カイさん!怪我は大丈夫なんですか!?」
『うん?大丈夫。ちょっと腰が痛いくらいだから』
「それであんな動きを……」
『そんな顔しなくても大丈夫だって。それよりあっちがまだ片付いてない』
女型は捕らえた。次は項からアニを引きずり出さなくてはならない。
『これからアニ・レオンハートから聞き出さなきゃなんない事が沢山あるんだ。忙しくなるぞ』
今頃ハンジが彼女を取り出しているだろうと下を覗き込む。その時、下が騒がしくなり、倒れていたはずの女型がむくりと起き上がった。
「くそ……あれだけじゃ足りなかったみたいだ!」
『まじかよ……』
大半の備品は壁外遠征のときに使ってしまった。ここに仕掛けたのは予備として残っていたものと急場凌ぎのもの。これで何とかする算段だったのに。
『仕方ない……もう直接止めるしかない……っ!?』
女型の方へと飛ぼうとした瞬間、ズキッと腰に鈍い痛みが広がり屋根に膝をついた。
「カイ!大丈夫かい!?」
『だい……じょ……』
「まだ怪我が治ってないんだろう!?無理はしないほうがいい!」
『そんなこと言ってる……暇ねぇだろうが!』
痛みを堪えて立ち上がるも足に力が入らない。ふらりと身体が傾いて倒れそうになったのをジャンが支えてくれた。
「クラウンさん!女型は俺たちでどうにかするんで、あなたは休んでください!」
『ダメだ』
「クラウンさん!!」
『あれは……俺が……』
「カイ」
ジャンの手を振りほどいて歩き出そうとしたカイの前にハンジが立ち塞がる。
「貴方の気持ちは痛いほどわかる。その悲しみも悔しさも。でも今は堪えてくれ。ずっととは言わない。後で必ず晴らさせてあげるから」
『ハン……ジ……』
「君は十分戦ったよ。だから休んでいてくれ」
その言葉にかくりと力が抜ける。ハンジの手を借りてその場に座り込むと、ハンジはモブリットを呼んだ。
「モブリット!カイをエルヴィンの所に連れて行ってくれ!」
「分かりました!」
『待てよ……なんでよりによってあのクソハゲの所なんだ』
「あそこが一番安全だからだよ。あれ?そういえば前はエルヴィンのこと名前で呼んでたよね?もうやめちゃったの?」
『うっせ……あれは間違えたんだ』
「あー、なるほど?動揺して名前で呼んじゃったんだ?」
『女型よりも先にハンジをバラした方が良さそうだな?』
「悪かったって。さあ、ほら行って」
モブリットの肩を借りてノロノロと歩き出す。ハンジは安心した表情を浮かべてから女型の所へと飛んで行った。
『よくあの奇行種の相手できるな』
「もう慣れましたよ。それより大丈夫ですか?担いだ方が楽だったりします?」
『なあ、モブリット』
「なんですか?」
『このまま女型のところに行かないか?』
「復讐心に燃えすぎですよ、クラウンさん」
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