第三幕
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『ふむ。これは中に人がいるって分かってんな』
補給基地手前の高い塔へと着いたカイは周りの巨人の数を見て苦笑。啖呵切って一人で赴いたが、これは一人でどうにかなる数では無い。
そもそも、ここに来るまでに何体もの巨人を倒してきた。それでも減らない数。来た道を振り返れば、そこにはわらわらと巨人がいる。訓練兵がここまでたどり着けるかも怪しかった。
『無理矢理飛び込ませるっていうのもあるけど、それにしたってなぁ。飛んでる間にワイヤーを掴まれたら終わりだし、途中でガスが切れる恐れもある。さて、どうするこの現状』
訓練兵たちはみな助けたい。未来ある若者をここで失うのはあまりにももったいない。とはいえ、全員を助けられるかと問われたら、絶対とは言えなかった。
カイの命一つでは足りない。
『とりあえず基地周辺の巨人の気を逸らすか』
まずはここで彼らが来るのを待つしかない。いざという時にガスが切れましたなんてことにはならないように、ここは温存しておこう。
『それにしても随分と使いやすくなったな。三年の間で改良したのか?』
見た目はさほど変わっていないが、細々としたところが作り替えられている。アンカーの刺し易さや、刃の耐久性能など。微々たる変化でも、以前に比べればとても扱いやすくなっている。
『これで少しは戦いやすくなってればいいけれど』
技術者も毎日知恵を振り絞って開発している。戦死者を出さないように、人間の小さな頭をフル回転させて。
それを無情にも踏み潰してくるのが巨人だけれど。
後方から聞こえてくる悲鳴に耳を塞ぎたくなる。振り返ったらまたあの光景が映るはずだ。
「はっ、はっ……あっ、アンタは……!」
『無事たどり着いたか』
安心した顔でカイのことを見るも、基地の方を見た瞬間その顔は崩れ落ちた。
「どうやってあそこに行けばいいんだよ!」
『このまま突っ込むの危ないだろうな』
「そんなの分かってる!」
限界が近いのか、彼はカイに向けて声を荒らげる。
「もう終わりだ……アイツらを無駄死にさせちまった」
訓練兵の数はだいぶ少なくなっていた。ここに来るまで多数の犠牲を払ってきたのだろう。そしてそんな彼らを率いてきたのは横にいる彼。
「俺は、俺はアイツらを……」
『君、名前は?』
「うるせぇ!今は名乗ってる暇なんてッ!」
『名前は?』
「アンタしつけ──え、」
『俺は憲兵団のカイ・クラウン』
怒鳴ろうとしていた彼はカイの紋章を見て固まる。相手が憲兵団だと気づき、己の失態に後悔しているのだろう。
「お、俺は……いえ、自分は104期訓練兵のジャン・キルシュタインです」
『キルシュタイン君ね。なんだか君はとても……』
真正面から顔を向けられると馬のように見える。なんて言ったら流石に怒るか。
『なんでもない。キルシュタイン、ここまで彼らを率いてきたのは君だね?』
「は、はい……。自分のせいで他の訓練兵たちを……」
『残酷なことを言うようだけど、それは仕方ない犠牲だったと思って欲しい。助けられる命と助けられない命はある。君たちは彼らの犠牲の上で成り立っている。それは反対もしかり。彼らが生き延びていたら君たちの誰か、または全員が死んでいた恐れもあるんだよ。だから……気にしなくていい』
「ですが……!」
『自分の判断を疑うな』
「あっ……」
『正しいかなんて分からないんだ。やってみなければ分からない』
人生は選択の連続だ。誰かがそんな事を言っていた気がする。そんなの当たり前だろうと思っていたが、自分が選んだ道が必ずしも正しいとは言いきれない。こうやって苦しんでもがいて後悔することが多い。
だからそうなった時は。
『俺は君の選んだ道が最善だったと思うよ』
慰めることしか出来ないだろう。
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