第274幕
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いつも遠くから眺めていた。触れたいと思う気持ちを必死に押し殺して、自分をひたすら探し回る海を。
海が江戸から離れたと聞いたときは慌てて追いかけた。銀時を探すために各地を転々としてる間に症状が顕著に現れた。きっと本人はどこかで感染したと思っているだろう。
まさか海が第二の感染者だとは知らずに。
「少しは手加減してくれないか?こっちは木刀で刺されてるんだから」
『いい気味だろうが。あいつにもう少し痛めつけておけと言っておくべきだった』
「久しぶりにあった恋人に対して辛辣すぎじゃない?」
『当然の報いだろ。さっき自分で言ったの忘れたのか?報いはちゃんと受けるって』
「それは言葉のあやで……」
漸く抱きしめられる、そう思って海を引き寄せたが何故か嫌がられて蹴飛ばされた。過去の自分とやりあった傷を蹴られて痛みに顔を歪める。
『言ったことには責任もてよ』
「はい……」
これは大人しく抱きしめさせてはくれなさそうだ。そう思って手の力を抜くと、海は不機嫌そうに銀時を見る。
「なに?」
『……別に』
「だって嫌なんだろ?」
手を離せば、海はムッと顔を顰める。
「海、言ってくれなきゃ分かんねぇよ?」
暫しの無言。海がどうしたいのかは分かってはいたが、敢えて銀時からはしなかった。言葉にして伝えて欲しかったから。
「海」
『……かった』
「うん?」
『……寂し……かった』
「うん」
『銀が……急にいなくなって。新八と神楽を宥めるのも大変だった』
「うん」
『どれだけ探し回っても見つからなくて。必ず見つけるって言ったのにあいつらは銀の墓を作ってて……』
それは銀時も見てきた。誰も死んだとは言っていないのに勝手に作られていたのだ。銀時の墓を見つけた海が呆然と立ちすくんでいたのはよく覚えている。
墓を前にして泣き続けていたのも。
『お前が死ぬわけない。俺を置いて勝手に死ぬわけないってそう思ってたのに。あの墓を見た時に揺らいだ。もう本当に居ないんじゃないかって。二度と会えないんじゃないかって』
それからだ。海の行動が荒み始めたのは。普段使わない銃を手に取って人を殺めた。向かってくる者全てを蹴散らしていく姿は攘夷戦争時によく似ていた。
『生きてて……くれて良かった』
「生きてたよ。ずっと見てたよ」
『それならなんで声を……側に居てくれなかったんだよ』
「俺が近くにいたら……分かるだろ?」
被っているフードを払い除けると、真っ白な髪が露わになる。綺麗な黒髪は色素が全部落ちてしまっていた。瞳の色も白く濁ってきている。もはや銀時のことを見れているのかも怪しい。
「死なせたくなかった。お前だけは……守りたかった」
背中へと手を回して抱き寄せる。今度は拒否されることなく腕の中へと納まった。
『銀が居なければ生きてる意味なんて……ないんだよ』
「俺に依存しすぎでしょ。お前には仲間がいるんだから」
『そっくりそのまま返す。ずっとついてきてたくせに』
海がどこかで死んでしまうんじゃないかと気が気では無かった。だからずっと海のことを追いかけ続けていた。一人で死んでしまわないように。もし息絶えてしまいそうになったら自分も共に逝けるように。
『ぎん』
「……なに?」
『すこし……つかれた』
「うん。たくさん動いたもんな」
徐々に海の心音が緩やかになっていく。
『つぎおきていなかったら……』
「その時は殴っていいよ。好きなだけ」
次はもうない。海の前に自分が現れることはもう無いだろう。
『ぎんとき』
「うん?」
『おれは……ずっとおまえのこと──』
「海」
そっと自分の唇で海の口を塞ぐ。それ以上聞いたら揺らいでしまう。この手を離せなくなってしまう。
『ぎ……』
「俺も好きだよ。ずっと。だから……さよならしよう」
ゆっくりと閉じられていく瞳に涙が溢れる。ぐったりとしていく身体を強く抱き締めた。
「海……海!」
呼びかけてももう海は反応しない。微かに動いていた心臓は動きを止め、海は眠るように息を引き取った。
「一人にはしないから。大丈夫。俺もそっちに逝くよ」
安らかな死に顔の海にキスをし、銀時も目を閉じる。漸く楽になれる。あとは過去の自分に任せるしかない。
こんな未来にならないように。海が幸せになれる未来に願って。
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