第274幕
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『知り合いが随分と世話になったようだな』
振り上げた刀は錫杖によって受け止められる。間近で見た魘魅の姿はとても不気味で見るに堪えなかった。
『そろそろ正体を明かしてもいいんじゃないか?江戸をこれだけ騒がせたんだ。その面を見ねぇとこっちもおちおち死んでられないんだわ』
"死"という言葉に魘魅がピクリと反応し、海は眉を顰める。
『今更何を驚いてんだよ』
今まで何百、何千という人を死に至らしめたのだ。たった一人の言葉でそんなに過剰反応するなんておかしい。
『もう終わりにするべきだ』
柄を強く握り駆け出す。海の動きに合わせて相手も動き出し何度も刃を受け止める。
「海!」
『こっちに来るな!』
倒れていた銀時がもそりと起き上がり、助太刀に入ろうとしてくるのを止める。今入られても邪魔になるだけだ。
「でもお前……!」
『煩い。これぐらいなんとも──』
ごぽりと何かがせりあがってくる感覚。手から力が抜け口からはダラダラと血が溢れてくる。
『こんな、ときに……!』
ぐらりと歪む視界と振り上げられる錫杖。それを避ける程の気力はなかった。
「海!!」
『ゴホッ!ふっ……ざけんな!』
ビシャビシャと地面に血を吐き出しながら錫杖を受け止める。
『は……?』
このまま刺されるかと思いきや、相手は錫杖に込めていた力を不意に抜いた。そして海から一歩身を引く。
『なに、して……』
口から流れ出る血をそのままに海は魘魅を見やる。先程まで感じていた殺気は消え去り、代わりにあるのは戸惑い。
「海!!」
魘魅の行動に困惑していた海を銀時は引っ張り、自分の背に隠すように壁となる。魘魅の敵意が無くなったのは一瞬だけで、銀時の姿を視界に入れた瞬間またしても錫杖を振り上げ始めた。
「ここは俺がなんとかすっからお前は下がってろ!」
『一人でどうにか出来る相手じゃないだろ……』
「病人に戦わせるほど弱くはねぇよ」
そう言って銀時は階下へと魘魅を誘導していった。
その後を海はじっと眺める。
『冗談きついだろ……本当にお前……』
魘魅と対峙して感じた違和感。あの戦い方は何度も相手したことのあるものだ。
そして海が血を吐いた瞬間、身を引いて戦意喪失した姿。あれではまるで……。
『分かってた。なんとなく分かってはいたんだよ……』
でもこうして改めて突きつけられると何も言えない。どうすればいいのか分からない。
『なんでお前が……』
ずるずると壁を背にして座り込む。もう右目も微かにしか見えなくなってきた。魘魅と対峙したときはもう勘で戦っていたのだ。
だが、あれは勘ではない。慣れ親しんだもの。
『銀時……なんでお前が……』
信じたくない事実に打ちひしがれる。そうじゃないと思っていたのに。きっと違うと思っていたのに。
まさか魘魅が銀時だったんなんて。信じたくもなかった。
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