第270幕
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「ったくよ。で?このまま帰んの?」
『いや、ちょっと寄っていく所がある』
診察を終えた海はスタスタと廊下を歩いていく。辺りをキョロキョロしながらブツブツ言っている姿を神楽と共に眺める。
「寄ってくってどこに?」
『見舞い』
「海、それならそっちじゃなくてあっち」
『病室変わったのか?』
「ううん。変わってないよ」
隣を歩いていた神楽が海の元へと駆け寄り、目当ての病室へと案内していく。どうやら二人の共通の知り合いらしく、その見合い相手の今の状態などを話し込んでいた。
「誰の見舞いに行くの?」
「姉御よ」
『新八の姉だ』
「姉って……お妙?」
「そうよ。もう長いこと入院してるの」
まさか新八の姉が入院してると思わなくて、銀時は口をぽかんと開けて驚いた。
病気なんて言葉が似合わない人間だったのに。いつも会う時は溌剌としていて、横になっているのが珍しいくらいだ。そんな人間が入院しているなんて信じられるはずもない。
「おいおい、冗談だろ?あの女が入院するなんて。ゴリラ女はゴリラらしく檻の中に入れられてるんじゃねぇのかよ」
『それならまだ良かったんだけどな』
「……自分で言っといてアレだけど。海が言うとなんか罪悪感凄いから前言撤回で」
檻に入れられてた方がマシだったなんて海の口から聞きたくは無い。今の発言はなかったことにして欲しいと頼み込む銀時を無視して海は呟いた。
『お妙さんは白詛にかかった』
「は……?」
『もう末期の状態だ。誰も何も言わないが、あの状態ではもう……』
「ま、待てよ……お妙が白詛にかかった?嘘だろ。あの女がそんなもんにかかるはずがねぇよ。インフルエンザになっても薙刀振り回してるような女よ?そんなことあるわけ──」
『あるんだよ。そんなこと。知ってると思うが、白詛になった人間の寿命が僅かだ。お妙さんとの面識は無さそうだが、その様子からして銀時からは話を聞いてたんだろ。それなら少しくらい顔を出してやれ』
海が何を言っているのか分からない。お妙の寿命が僅かなんて信じられず、廊下を歩く海の背中を呆然と見つめることしか出来なかった。
「白詛にかかったら半月しかもたないの言ったでしょ?でも、姉御は長くもった方なの。医者も驚いてた」
「長くもったって……」
「理由は分からない。本当だったらとっくに……」
俯く神楽は目に涙を溜めていた。その顔を見れば冗談では無いことは明白だ。
「次はもう会えないかもしれない。そう思って私たちは毎日お見舞いに来てる。毎日見てれば分かるのよ。どんどん姉御が白詛に侵されていくのが」
白詛がナノマシンなのであれば医療の力では助けることが出来ない。日々、やつれ衰えていくお妙を見守ることしか出来ない神楽と新八の心労は計り知れないものだろう。
『なんか騒いでるな』
「海さん?どうして……ここに」
病室から聞こえてくる騒ぎ声と、部屋の前でボロボロと泣いている新八。
『たまには顔を出してやらないと。怒られるのは目に見えてる』
「そう……ですね。海さんが姉上に会うの久しぶりですし。きっと喜びますよ」
『それにしても騒がしくないか?』
「今、中で九兵衛さん達が……」
『あいつらに会うのも随分と久しぶりだな』
ため息をつきながら病室の取っ手を掴んだ海の手を銀時は横から掻っ攫う。
『おい』
「病人目の前にして何騒いでんだ。やかましいったらありゃしねぇ」
海の代わりに戸を開けて中へと踏み込む。ベッドで横になっていた女の胸ぐらを掴んで揺さぶっている猿飛の頭へと手を伸ばして諍いを止めた。
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