第270幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「桜樹さん、もう……」
『分かってる。手間をかけた』
「いえ……私らは医者ですから。患者として運ばれてきたのであれば診るのが仕事ですので」
珍宝に背負われてやってきた病院で医者は困ったように身をすくめる。
自分の身体のことは自分がよく知っている。だから診察するのも治療を施すのも必要ないと断った。
だが、そばに居た珍宝がそんなことを許すはずもなく、医者に診て欲しいと懇願して今に至る。
「外にいる方はお知り合いですか?」
『最近な。俺の知り合いというか、銀時の方の』
「坂田さんの?じゃあ、彼のお墓参りに来たということですか?」
『らしい。今の江戸は危ないから護衛を頼まれただけだ。そんなに親しいわけでもない』
だからあの男には何も言うなと告げて椅子から立ち上がる。いきなり立ったものだから血の気が引いていく感じと吐き気に襲われて、ふらりと身体が傾いてしまった。
「桜樹さん!無理はしないでください!」
慌てて手を貸そうとしてきた医者の手を弾き飛ばし、ふらついた身体を元に戻す。目眩と吐き気にうんざりしながら医者に背を向けた。
「もう以前のようには動けませんよ。いつか……いえ、早いうちに桜樹さんも他の患者さんたちと同じようになります」
『そんなこと一々言われなくても分かってる。無駄な診療をさせて悪かった。邪魔したな』
診察室の戸に手をかけて開けようとした海の背へと医者の悲痛な叫びがぶつけられる。
「私はこんなにも己の知識不足を恨んだことはありません!もっと……もっと私が学んでいれば!」
『……あんたが悪いわけじゃない。元はと言えば、"俺が悪かった"んだ』
それだけを残して海は戸を開けた。
暗い廊下へと出ると、ぼうっと突っ立っていた珍宝が海に気づいて駆け寄ってくる。
「大丈夫だったのか?どこか悪いとこあったんじゃないの?」
『さっきも言った。どこも悪くは無い』
「ちゃんと見てもらったのかよ。吐血しといて悪いところはないなんてないだろ」
『吐血なんて誰でもする』
「いやしねぇよ。何その風邪みたいな言い方。誰でも吐血してたらそれこそヤバいだろうが」
『お前が気にする必要はない。こんなことくらいで騒ぎやがって。迷惑かけすぎだ』
「こんなことって……これ二度目なんだからな?咳き込んで倒れるの。やっぱりなんかおかしいんじゃねぇの?」
「そうよ。ちゃんと診てもらったほうがいいわ。海は自分のことになると面倒くさがって気にしなくなるんだから」
『……なんで連れてきたんだ』
腕を組んでむくれているのは神楽。ここには珍宝しかいないと思っていたのに何故、彼女が一緒にいるんだ。
「心配してるからに決まってんだろう。あんなところで血を吐いて倒れたら誰だってびっくりするわ」
「二人が出てくるのを外で待ってたのよ。そしたらコイツが突然走ってどっか行くもんだから。変だと思って後を追いかけていったら海が倒れてるんだもん」
『あんな雨の中、外にいたのか』
「そうだけど」
『なんで中に入らなかった。待つなら中で待てば良かっただろ』
「だって中は騒がしいし。酒臭いし、タバコ臭い」
『臭いは我慢してくれ。雨の中外に出るのはやめろ。風邪をひく』
「……あのさ、これ何の話?海の体調の話をしてたんだよね?なんでこの子の体調の心配してるの?」
『こんな薄着で濡れたりしたらすぐに風邪をひく。それくらい分かることだろうが』
「分かるよ?そりゃ分かるよ?こんなペラッペラの布じゃ身体が冷えるのは俺もわかる。でもさ、なんか違くない?倒れたのは神楽じゃなくて海よ?心配されてるのはお前なのになんで神楽が倒れたみたいになってるの?」
不思議そうに首を傾げる珍宝に神楽が深くため息をつく。
「言ったでしょ?海は自分の事に関しては無頓智なの。どれだけ言ったって聞きやしないのよ」
「わかるけど!!知ってるけど!!今は違くない!?」
『騒ぐな。ここがどこだか忘れたのか』
「病院です!!俺は倒れた海を運んできたはずなんですけど!?!?」
.