第268幕
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「そんなところで何をしているんだ貴様ら。まさか俺の目の届かないところで逢引をしているわけではないな!?」
『うるさいのが来た』
「なんだと!?海、今なんと言った!」
ムッとした表情で現れたのは桂だった。その手にはどっさりとおにぎりが乗った皿を持っている。
「海、ちゃんとご飯は食べなさい」
『今食べてる』
「それだけでは足りないだろう」
『足りる』
「嘘をつくな。お前の腹は大皿一つくらいで満たされるほど小さくは無い」
『しつこいぞ母さん』
「誰が母さんだ。こんなひねくれ者を育てた覚えはない」
『俺もこんな給食のおばちゃんみたいなやつに育てられた覚えはない』
文句を言いつつも海は差し出された皿を受け取っておにぎりへと手をつける。もぐもぐ食べている姿が可愛くてつい見続けていたら、海は首を傾げながら皿を銀時の方へと向けた。
「うん?ああ、俺はもういいよ。海がくれた分で十分」
『ん、ん』(足りたのか)
「足りたよ。だから心配しなくていーよ」
『ん』(そうか)
「口元にご飯粒ついてるぞ」
『ん……?』(どこに?)
「そっちじゃない。こっち」
『んふふふ』(こっちじゃ分かんねぇよ)
「ああもう取ってやるから」
「お前らなんで会話が成立しているんだ」
口の端についていたご飯粒を取っていると桂が引き気味に銀時のことを見ていた。
「なんでって……え?そう言ってるように聞こえない?」
「俺には全くわからん。お前らを見ているとまるで五年前に戻ったようだ」
桂はどこか懐かしそうに銀時たちを眺め、そして悲しそうに俯いた。
「やつがいなくなってもう五年か……俺はあの世でやつに会わす顔がない。やつが残していったものを護ることができなんだ」
「お前やつが何をしようとしていたか知ってるのか」
おにぎりに夢中になっている海を横目に銀時は桂へと声をかける。桂も海が話を聞いていないのを見てから口を開いた。
「白詛……いや、あの時はまだそんな名はついていなかったな。銀時がなぜこの星に白詛が蔓延する以前にその存在を知り得ていたかわかるか?それはやつが今より十五年前にすでにそれに出会っていたからさ」
「十五年前?」
「ああ。攘夷戦争時代に」
まさかそんな古い話が出てくるとは思わなかった。その頃から白詛の事を知っていたのであれば今の自分だって白詛の事を知っているはず。でも、どれだけ過去を辿っても"白詛"という名前は思い当たらない。
「長期化する攘夷戦争を終結させようと幕府方がある戦を用いた傭兵部隊があった。一度戦に出るや星が使い物にならなくなるほどの甚大な被害を生むためいつぞやから禁忌の存在とされ歴史の闇に埋もれた者達……星崩しの異名をとる忌まわしき存在。その名を──」
「厭魅……」
記憶に残っているその名は銀時がよく知るものだ。そして隣でおにぎりを食べ続けている海も。
「お前ひょっとして攘夷戦争に……」
「そいつなら俺も知ってるぜ。蠱毒と呼ばれる呪術を用い、攘夷志士たちに大層な損害をもたらしたとか。だが、種を明かせばやつらの呪術とはナノマシンと言われる極小のカラクリ。そしてやつらが用いたそのナノマシンは現代において猛威を振るう白詛のそれと酷似していた」
「もしやおぬし銀時の死について調べを……」
「俺もあの時は警察だったからな。死人が出りゃ捜査くらいするさ。それに……」
土方は煙草を吹かしながら海を見る。
「そいつが関わってるとなったら無視はできねぇだろう」
厭魅との関わりが深いのは海だ。
昔、海は部隊を戦地に残して一人行方不明になったことがあった。銀時が散々探し回った結果、海はやつらの船に捕らわれていたのだ。
厭魅を倒したのは銀時自身。あそこから海を救い出したのだから。
「そんなはずはねぇ。やつらは……やつらは確かにあの時に……」
──……呪いって信じるか?
ふとあの時の海の言葉が蘇る。厭魅を倒して帰ろうとしていた時、不安そうな顔で海はそんな事を言っていた。その時は何を言っているのか分からなかったが、もしかして海は何かを見ていたのかもしれない。
「海、お前何か知ってるんじゃないのか?」
隣にいる海へと顔を向ける。
『さあな。俺が知ってるのは人の身体を使って人体実験してたことくらいだ』
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