第268幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そんなところで食べてたら冷えるんじゃない?」
一人で外を眺めながらご飯を食べている海の側へと立つ。
『中で土方たちと酒飲んでれば良かっただろ。なんで出てきた』
「君を放って飲んだくれる気にはならなくてな」
『俺のことは気にしなくていい』
「そんなこと出来るわけねぇだろ?それこそいじめてるように見えちまう」
本人が望んだとはいえ、輪から外れて一人でいるのを眺めて居られるほど図太くは無い。それになるべく海の傍にいた方が良いだろう。
『ん、』
「なに?」
ずいっと目の前に差し出されたのは海が持っている皿。なに?と再度問いかけると、海は何も言わずに皿を突き出すだけ。
「食べていいの?」
『何も食ってないだろ』
「そりゃまあ……でもこれ君の分じゃないの?」
『部屋に戻ればおかわりはできる』
「そ。じゃあ遠慮なく……うん?」
差し出された皿にはスプーンが乗っている。そして海の手にもスプーンがあった。
「……もしかして俺が来るって分かってて用意してくれてたの?」
『金魚のフンみたくついてくるだろ』
だから銀時の為にスプーンを用意していた。
「あ、そ……うん。ついて行くよ」
『大丈夫か?お前顔真っ赤だが』
「大丈夫大丈夫!さっきちょっともらった酒が今頃きたみたい」
『胃に何も入ってない状態で酒を飲むな。荒れるぞ』
「気をつけます、はい」
ニヤついてしまう口角を手で隠しながら銀時は料理へと手をつける。黙々と食べ進めている海の横顔を盗み見しながら銀時は熱くなった顔を冷まそうと必死だった。
『そんなことより。源外のおっさんはどうしたんだ』
「処刑場にいたじーさんは偽物だったよ」
『偽物?』
「そ。あのクソジジイ、自分の身代わりを用意してやがった」
あの場の混乱に乗じて源外を助け出そうとしたのだが、思わぬ邪魔が入って上手くいかなかった。まさか源外の首を叩き落としてしまったのかと焦って銀時は逃げ惑ったのだ。持っていた首がカラクリだと気づいた時は心底安心した。
『そうか』
「そうかって……お前心配だったの?」
『心配はしてない。どうせそうなるだろうと思ってた』
「そうなるだろうって……まさかアレがカラクリだって分かってたのか?」
『なんとなくな。あのおっさんがそんな簡単に捕まるわけないだろ。そうなったら……』
「そうなったら?」
その後の言葉は続くことなく濁される。
「そういや、源外のじーさんには利用価値があるとか何とかって言ってたよな。それって本気で言ってたのか」
『八割がたは』
「八割って……じゃあ残りの二割は?」
『腐れ縁』
「なにその比率。普通逆じゃない?」
『あのおっさんは一応指名手配になってる。将軍の首を取ろうとしていた罪で。そんな奴と関わりを持つなんて自分の首を絞める行為に等しい。だが、カラクリの技術に関して右に出るものはいない。殺すにしては惜しい人材だったからな』
だから生かすことした。そう言ってから海はパクリとご飯を頬張る。
「それだけの理由でじーさん匿ったのか」
『お前からしたらそれだけかもしれないが、こちらとしては大きな理由だ』
海は最初からそのつもりで源外を隠していたのか。真意を探ろうと表情をじっと見つめてみたけど、海は無表情のまま。
「それじーさん知ってるのかよ」
『知ってるんじゃないか?例え知らなくても言うつもりもないしな』
「銀さんも……知らないってことか」
『あいつは知らない』
「利用価値があるなんて言ったら銀さんは怒りそうだからねぇ」
『どうでもいい。大体、それだけの人間を幕府の目に止まらないようにするのにどれだけ手間がかかると思ってるんだ』
「でもそれだけの価値があったんだろ?カラクリで何かをさせるくらいは」
源外の作るカラクリの凄さはよく知っている。そのせいで何度も被害に遭っているのだから。その技術を悪用すれば国家転覆なんて夢では無い。高杉が源外を利用したときは銀時と海が止めに入ったから防ぐことが出来た。でも、海が利用したとなれば話が違ってくる。
『まあ……な。価値はあったよ。価値は』
「ふうん。"なかった"んだ」
銀時の呟きに海はぴたりと手を止める。
「警察のご身分で指名手配犯を匿うなんて大罪を犯してまであのじーさんに利用価値があるなんて思わない。それだけの見返りがあるならまだしも、あのクソジジイはろくなカラクリを作ってなかった。それでも君の言う"価値"はどこにあったの?」
優しく問いかけるように聞くと、海は俯いた。顔を覗き込もうと身を乗り出したけど、相手は見られないようにとフードを引っ張って覆い隠す。
「嘘はダメだよ。海」
『うるさい』
.