第266幕
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「ちょ、ちょっと待って!少し休憩しない!?」
『してる間に新手が来るぞ』
「こんなひっきりなしに奇襲掛けられるなんて聞いてないんだけど!?」
『言っただろ。死にたければ勝手にしろと』
新八たちから離れてからというものの銀時は何度も役人たちを相手に木刀を振りかざしていた。人目につかないようにと大通りを避けて進み、廃墟が並ぶ小道を隠れるようにして歩いてきたというのに、海と銀時は執拗に役人や忍びに襲われ続けていた。
「こんな追い討ち掛けられるほど君の上司は悪いことしたわけ?」
『いつものストーカーだ。度が過ぎて捕まった』
「懲りずによくやるもんで!」
背後から銀時を斬ろうとしていた男を木刀で叩きつける。この男で最後だったのか辺りは漸く静かになった。
「ストーカー如きでこんなに狙われるかね。確かにあの男は存在が害悪だけどよ」
お妙にとっては害悪以外の何物でもないだろう。四六時中付け狙われ、見つけてはいつも怒りに任せて投げ飛ばしていたのだから。捕まったということは彼女はやっと安寧を手に入れたということだ。その代わりに近藤の部下であった海はこんな目にあっているのだが。
「(それにしてもコイツら……ただ海を殺そうとしてるわけじゃねぇな)」
剣を交える前に役人たちは投降しろと必ず口にする。それに海が応じないから交戦するのだが、彼らが本気でやり合っている感じがしない。なるべく海を傷つけないようにしてどこかに連れていこうとしている。
「なあ、こいつら本当にただの役人なのか?」
倒れている男から海の方へと目を向ける。どうせ今頃生きているやつにトドメを刺しているのだろうと思って。
『ゴホッ……』
「お、おい!大丈夫か!」
振り返った先に居た海は苦しそうに咳き込んでその場に座り込んでいた。側に寄って丸まった背中を撫でようと手を伸ばした銀時に海は刃を向ける。
『こっちに……来るなッ』
「来るなって……そんな事言ってる場合じゃねぇだろうが。お前……それ……!」
『咳き込んだくらいで一々騒ぐな……耳障りだ……』
咳と共に血を吐いている。口の端からダラダラと零れていく血は海の服を汚していった。
「どこか斬られたのか!?」
『ちが……ゲホッ!』
びちゃりと地面に血が飛び散って頭が真っ白になっていく。間隔のあった咳は段々と狭まっていき、今では呼吸することもままならないくらい酷くなっていた。これでは呼吸困難になってしまう。早く病院に連れて行ってやりたいが、こんな荒廃した世界にまともな治療を受けさせてくれるような場所が残っているのか怪しい。
それにきっと彼らは海を逃がさないだろう。
「見つけたぞ!アイツだ!」
「捕まえろ!これでやっと……!」
「どうんだよこれッ!」
『い、け……ここ、から離れろ……』
「置いて行けるわけねぇだろうが!」
『あいつらの……狙いは俺だから……お前は……逃げられる』
「だから置いていけねぇんだよ!」
今にも倒れてしまいそうな体で立ち上がる海。迫り来る役人に向けて弱々しい手で刀を握り、銀時を守ろうと盾になる。
「海!」
『こんなところで……死なせるわけ……には……』
「海!!!」
グラりと傾いていく海の身体を受け止める。気を失ってしまったのか刀を持っていた腕はだらりと垂れた。
「連れていくぞ!」
その声と共に役人たちが一斉に動き出す。海を守るために銀時も木刀を手にして構えたが、彼らは銀時の元へとたどり着くことは無かった。
「何が……」
「新八さんの言う通りだ。探して正解だったよ」
役人たちを一撃で吹き飛ばしたのは見慣れない青年。刀を鞘に戻しながらこちらへと歩いてくる彼に銀時は警戒を強める。
「お前……誰だ」
「貴方こそ誰ですか?随分と兄さんに護られてたみたいだけど」
海のことを"兄さん"と呼ぶのは一人しかいない。でも銀時の知っているその人物は目の前の青年とはかけ離れている。
「お前……まさか朔夜か……?」
「どうして僕のことを?」
不思議そうに首を傾げる朔夜。その姿はどことなく銀時の記憶の中にある朔夜と似ていた。五年もあれば人は成長するだろう。成長期であったのだからその変化も著しい。
とはいえ、随分と成長したものだ。
「……ガキの頃はそうでもなかったのに。まんまあのクソ親父に似てるじゃねぇか」
あの忌々しい男に似ている。話し方が違うだけで顔つきはそっくりなのだ。このまま歳を食ったら西ノ宮と瓜二つになるだろう。
「人の顔をジロジロ見ないでもらえませんか?失礼ですよ」
「あ、わ、悪い」
「それと兄さんから離れてください。誰なんですか貴方。なんで兄さんと一緒にいるんですか。ことによっては斬りますよ」
どうやら何年経っても彼のブラコンは直っていないらしい。むしろ悪化しているとも言える。
「さっきからなんなんですか!人の顔ジロジロ見てると思ったら今度は人を馬鹿にしたような顔して!」
「バカにはしてねぇよ。ただ、変わってねぇなぁって」
バカにはしていない。ただちょっと口元が緩んでしまった。相変わらずだなぁと。
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