第266幕
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「海さん!」
「海!」
周りにいた役人たちが全員地に倒れた頃に新八と神楽は戻ってきた。海の足元を見て二人は愕然とした表情で固まる。
『騒がしくし過ぎた。これじゃすぐに居場所がバレる』
「で、でも最近は静かだったのに……なんで……」
『処刑が近いからだろ。俺が戻ってくると見計らってここら辺の警備を強化してたんじゃないか?』
「それにしては少数すぎる。こんな人数で海さんを相手出来るはずがない」
『忍びを雇ったようだ』
「まさか……!」
『知り合いでは無いみたいだがな。アイツらだったら上手く殺気を消せるはずだ』
「……あのー、さっきからなんの話しをしてるのかサッパリなんですけど」
頭を抱える二人に淡々と状況説明する海。そして銀時は訳が分からず蚊帳の外。海が役人に狙われているというのは理解した。だがその原因がわからない。
「君……何したの?こんな狙われ方するなんておかしいだろ」
『銀時からどれだけの話を聞いたんだ』
「え?なんで銀さんが出てくるの?」
『俺が真選組に所属していたことは知っているな?』
「それは知ってるけど」
『真選組の局長である近藤勲という男が今投獄されている。その人に下された罰が処刑で、日程は明日の昼』
「えっ!あのゴリラ何したの!?」
『知ってるなら話は早い。俺はその男を助けるために江戸に戻ってきた。役人らに悟られないように動いていたんだが……』
「俺たちのせいで相手にバレちまったって……こと?」
『そうなるな』
昨日今日と大通りで騒いでしまったせいで役人の目に止まってしまった。だからこうして海は命を狙われている。
だが、役人たちは最初海を見つけた時連れていこうとしていなかったか?近藤が罪を犯しているならその部下だった海たちもその責を問われるのは仕方ないと言えども、彼らはどことなく海に対して怯えを抱いていたように見えた。
「桜樹さん……あんたなんか隠して──」
『新八、神楽。お前らはコイツのそばにいろ』
「なんで?こんなやつ放っておいても大丈夫よ」
『俺と一緒にいるのを忍びに見られてる。今からアイツらを追いかけるのは無理だ。このことはすぐさま相手に伝わるし、コイツも手配書を作られるかもしれない』
「言わんこっちゃない。だからこんな人放って置いた方がいいとあれほど言ったんだ」
「ちょっと待てよ。俺の話してんのになんでその本人が話に加わってないわけ?それに俺の面倒見てくれるのは君じゃないの?」
このまま黙っていたらこの二人に丸投げされそうだ。慌てて海に声をかけると、面倒くさそうな顔で銀時を見やる。
『今の見てなかったのか?俺の近くに居たら頻繁に襲われることになる。相手はあの手この手とやり口を変えてきてる。今回は追い返したが次はどうなるかわからない』
「追い返したというか全滅してるけどね。それなら尚更君は一人にならない方がいいんじゃない?あれだけの人数を一人で相手してるとなるといくら強くても疲れてくるだろ。そんな時に襲われたら一溜りもないよ?」
『だからついてくるなと言ってる。俺一人なら何とでもなるから』
頑なに着いてこさせたくないのか海は首を横に振り続ける。新八と神楽はもう見慣れているものなのか諦めの表情だ。
「あっそ。そこまで言うならもう何も言わねぇよ」
『なるべく人目のつかない所にいけ。この二人について行けば身の安全は──』
「そうやって人に押し付けて責任逃れするんだ?」
『……は?』
「ちょ、アンタ何言ってんのよ!」
「おい、貴様!今の発言を取り消せ」
「嫌だね。だってコイツさっき俺の面倒を見ろって頼まれたところなんだぜ?それを自分は危険人物だからなんだとかで人に任せてよ。二週間の間は一緒に居てくれるんじゃなかったの?」
正面突破が無理なら変化球で行くしかない。真っ向から反論して通じないなら相手の嫌がるところから突けばいい。
この子はこうやってバカにされるとキレるから。
『何が言いたい』
「頼まれた仕事放棄して一人で逃げるんだろ?後のことは"年下"に任せて自分は"気楽"に掃除とは随分と"無責任"じゃねぇか」
無表情だった顔に段々と怒りが滲み始める。横にいる二人が銀時と海の顔を交互に見て冷や汗を垂らしているのを横目に銀時は続けた。
「大体、役人から狙われてるの知ってるならなんで請け負ったんだよ。キッパリ断ってればよかっただろう。出来ない"約束"はするもんじゃねぇよ」
「いい加減にしなさいよ!アイツらが警備を固めてたなんて知らなかったんだからしょうがないでしょ!?そもそもいつまでもここに居るアンタの方が悪いんじゃない!」
「知らなかったって。だって江戸にいたときはずっとそうだったんだろ?少し離れてたくらいで指名手配が無くなると思ってんのか?そんなにここの役人はバカなの?」
けっ、と笑い飛ばすと神楽は青筋を浮かべて銀時を睨んだ。黙りこくっている新八も同様で今にも噴火しそうな状態。
『そうか。そこまで言うならついてくればいい』
「なに?面倒見てくれる気になった?」
『死にたいならついてくればいいと言ってるだけだ』
フードの中から見えた黒い瞳はとてつもなく冷えている。その眼光に背筋がぞわりとして鳥肌が止まらない。
「(やっべ。これ言いすぎたか?)」
神楽と新八の横を通って歩き出す海。その後を追っても良いのかと狼狽えていると、海が銀時の方を振り返った。
『死にたいんだろ?』
「そ、そこまでは言ってな──」
『人のことを散々バカにしておいてそれはないだろ?来いよ。お前が望んだことだろ』
「は、はい……」
地を這うような低い声で唸るように言われ、恐怖で足が竦む。言ったからには海について行かねば。ガクガクと膝が笑うのを堪えながら銀時は海の背中を追いかけた。
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