第265幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「まさか本当に連れてくるとは思わなかったよ」
「連れて来いって言ったのはそっちでしょうが」
海の手を引いて銀時はお登勢の店へと戻ってきた。
店に着くなり海は魚をお登勢に渡して帰ろうとしたのだが、自分で捌けと言われて渋々残っている。店の奥から調理している音と美味しそうな匂い。久しぶりに海の手料理が食べれるのかと思ったら口の中に涎が溜まっていく。
「あんたどうやって連れてきたんだい」
「どうやってって普通に連れてきたけど?」
「よく見つけたじゃないか。子供らですらアイツを探すのに一苦労するってのに」
「それは探し方が下手なんじゃない?屯所に行ったら普通にいたよ」
「屯所にねぇ。まだあそこから離れられないのかね」
「帰る場所って言ったらあそこなんじゃない?彼にとっての"家"なんだから」
屯所は海にとって家だ。勤め先という意味もあるけど、あの場所は海の心が安らぐ場所でもあるだろう。万事屋も海の家として迎えているが、屯所は言わば実家のような所。
「なんだい。随分と詳しいじゃないか」
「そ、そりゃ銀さんから色々と聞いたからね!俺も気になって聞いちゃったから。兄弟に恋人が出来たって知ったら聞きたくなるもんだろ?」
「さあね。よく銀時が話したもんだよ。黒猫の話となれば嫌な顔して口閉じるのに」
「え。そんな嫌な顔してた?」
「してたさ。自分のモノを誰かに盗られるのが嫌だって顔さね」
「(そんなに顔に出てたのか)」
確かに海の話を誰かにするのはあまり好きではなかった。変に興味を持たれて近づかれるのは厄介だ。外見が整っているせいで男女問わず目を引いてしまう。見た目だけならまだしも、性格も万人受けしてしまうから好感を持たれやすい。
虫が付かないようにと指輪を渡したのに、それでも寄り付こうとする輩が居るのだから銀時の悩みは絶えなかった。それ故に他人から海の事を聞かれると無意識に眉間にシワがよってしまう。その表情をお登勢に見られていたのだろう。
「銀時にどれだけの事を聞かされたのかは知らないけど、あまり海の話をするんじゃないよ。あの馬鹿なら化けて出てきそうだからね」
「その方がいいんじゃないのか?化けて出てきてくれた方が桜樹さんにとっては嬉しいんじゃ──」
『これ食ったらとっとと帰れ』
銀時の言葉を遮るようにカウンターに皿が置かれる。叩きつけるように置いてしまった為、海はお登勢からじとりと睨まれるが、そんなのお構い無しに続けた。
『無駄な話してる暇があるなら用件を終わらせろ。お前みたいなのがいつまでもフラフラしていい場所じゃない』
「ご忠告ありがたいけど、俺の用件はまだ終わりそうにないんだよね。君が手伝ってくれるって言うなら早く終わるんだけどさ」
『なら諦めろ。墓参りだけして帰ることだな』
「帰るったってどこに帰ればいいのやら」
この世界に銀時の帰る場所は無い。唯一帰れるとしたら上にある万事屋だけ。でも、そこは今の自分のものではない。元の家に帰るためにはこの世界で色々とやらなければならないのだ。
『田舎から出てきたんじゃないのか』
「田舎だよ。うんと遠いところ。下手したら二度と帰れねぇ」
出された煮魚を箸で続きながら苦笑いを浮かべる。
「海、アンタこいつの面倒みてやりな」
『何故』
「銀時の忘れ物じゃないか。忘れ物同士仲良くやったらどうだい」
お登勢の言葉に海はグッと唇を噛む。
「いいよ。俺は一人でなんとかすっから。君は君で忙しいんだろう?」
強く噛まれている唇は白くなっていて、今にも切れてしまいそうだった。海の口元へと手を伸ばして指先で突いて噛むのを止めさせれば、海は不機嫌そうな顔で銀時を見る。
『二週間』
「え?」
『二週間の間に用件を終わらせろ。それ以上は付き合いきれない』
それだけ言って海は店を出ていく。そのままどこかへ行ってしまうのかと思って外まで追いかけたが、海は店の横で立っていた。
「あ、れ?」
『早く飯を食ってこい』
「え?あ、うん……いや、でも君も一緒に食べようよ」
『早く食って来いって言ったのが聞こえなかったか?』
カチャっと金属音が聞こえるのと同時に首元にヒヤリとしたものが突きつけられる。それが刀だと気づいた瞬間、銀時は即座に店の中へと戻った。
.