第265幕
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「うおっ!?」
このまま着地したらぶつかる。そう思って身体を捻った。見事に着地に心配して銀時は地面に仰向けに倒れる。見上げた空は雲ひとつない晴天。今日も天気がいいなぁなんて眺めていた銀時の視界を遮る黒。
『俺は帰れと言ったはずだが?』
「あれ?そうだっけ?」
『ここでなにしてるんだ』
「たまには空を眺めてみようかと思ってね?」
『それならもっと近い方がいいだろ』
「うん。そうだね。でもそれは別の意味で空に逝っちゃうからやめようか」
銀時の首元に突きつけられたのは綺麗に磨かれた刀。
『そっちの方がいいんじゃないか?』
「まだ死にたくないからね。死ぬにはまだ早いからね!」
突きつけられた刀から逃げるように飛び起きる。海は残念そうな顔で刀を鞘へと納めて背を向けた。
『死にたくないなら元の場所へ帰れ』
「帰るったってもう戻る場所がねぇんだよ」
『今まで住んでた家があるだろ。そこに戻ればいい』
「家、ね」
帰れるものなら帰りたい。こんな殺伐とした世界じゃなく、騒がしいけど平和だった世界に。未来がこうなると知ったのだから今過去に戻れれば未来を変えることが出来るかもしれない。
銀時が行方不明になることも、海が一人になることもなかったはずだ。
「帰りたいけど帰れねぇんだよ」
帰る方法が分からない。家はあるのに。
『飯は』
「え?」
『飯は食ったのか』
「いや……食べてないけど」
なんで今それを?と不思議に思いながら銀時は答える。海は少し悩んだ末にため息を漏らして歩き出した。
「えっ、ちょっと……!」
『ここら辺で飯を食えるところは限られてる。お前みたいなよく分からないやつに快く提供してくれるような人は少ないからな』
「限られてるっていうか無いよね?飯食えるところなんて探しても見つからないんじゃ」
『無いなら作るしかないだろ』
「ごもっともで」
ついてこいと言われて銀時は海の後を追いかける。途中で立ち寄った倉庫みたいな所で釣竿を持ってきた海はその足で海へと向かった。
「まさか釣るの?」
『スーパーで買うつもりだったのか?』
「違うけど……いやなんか……その」
『腹が減ったのなら自分でどうにかするしかない。以前みたいに頼めば飯が出てくるわけじゃないからな』
そう言って海は竿を振って海に糸を垂らしてその場に座る。その横に銀時も腰を下ろして海を眺めた。
「いつも一人で行動してるの?」
『一人の方が楽だからな』
「寂しくないの?」
『別に。もう慣れた』
慣れたということは以前は寂しいと思っていたのか。それでも一人でいることを選んだ。
「どうしてあの子らと一緒にいないの?」
『答える必要は無い』
「銀さんから聞いてるよ。あの子たちにすごい懐かれてたって。君も彼らを大切にしてたって。喧嘩したわけじゃないんだろ?」
『もう子供じゃない』
「そうかもしれないけど……彼らはまだ──」
海と一緒にいることを望んでいる。そう言おうとした銀時の言葉を遮るように海面がぴしゃりと跳ねた。
『これを万事屋の下に持っていけ。そうすれば何か作ってもらえるだろ』
釣り上げたのは大きな魚。それを用意していたバケツに入れて銀時に押し付ける。
「それなら一緒に行こうよ。お登勢さんも君のこと心配してたし」
『お前一人で行け。俺はやることがある』
「やることって?何か困ってるなら手伝うけど」
『その必要は無い』
この場を去ろうとする海の手を掴んで引き止める。ここで行かせたらまたいつ会うか分からない。
「一緒に行こうよ。君だってお腹空いてるでしょ?」
『俺は空かしてなんか──』
ぐううううう。
「ほら。空いてるじゃねぇか」
『こ、れは!』
「君のお腹は口より正直だね」
海のお腹から聞こえたのは先程銀時の腹から聞こえてきたものと同じ音。恥ずかしそうに顔を背ける海に微笑みながら銀時は海の手を引いて歩き出す。
『おい!離せ!』
「腹が減ってはなんとやらって言うだろ。いいから大人しくついてこいって」
引き剥がされないようにしっかりと海の手を掴む。その手を外そうと海は暴れたが、お登勢の店が近くなった時には諦めてされるがままになっていた。
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