第264幕
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「二人はここで待ってろ」
新八と神楽を屯所の前に残して銀時は一人塀を乗り越えた。
手入れのされていない屯所は廃墟同然。綺麗だった庭には雑草だらけ。建物の方も瓦が剥がれ落ち、柱が腐り始めていた。
「随分とボロくなったな。使われなくなったとはいえこの壊れようは……」
ただ放置されていただけじゃない。この傷み方は人の手が加えられているように見える。外があんなになっているから察するに屯所は暴動か何かを受けたのだろう。あちらこちらに見える損壊はそのせいだろう。
近藤が捕まってから真選組は解体されたと聞いたが、きっと彼らは真選組が無くなったとしても集まっているはずだ。海を見つけることが出来れば真選組の人間らとも話が出来る。
適当に庭をうろうろしてみたが海の姿はどこにも無い。
「外に居ないなら中か。雨風凌ぐくらいなら出来るかもだけど、こんな所にはいつまでもいたくねぇな」
当然だが建物には明かりなどない。屯所の周りには塀があるから外の街灯も中までは届かず真っ暗だ。どんよりとした雰囲気を醸し出しているところへ一人で入らなければならない。これなら待機している新八たちを呼んできた方がいいのではないかと逡巡したが、怖いからついてきてくれというのはなんだか情けない。
「だ、大丈夫だろ!多分!」
嫌な汗が額に滲むのを感じながら銀時は縁側へと足をかける。ギシッと板の軋む音に大袈裟なくらい肩を揺らした瞬間、首元に何かが当たった。
『ここで何をしている』
「うわあ!?!?」
背後から聞こえた声に驚いて銀時は頭を抱えてその場に蹲る。
『……おい。聞いてるのか』
「知らない!知らない!俺は何も見てないから!幽霊なんて見てないから!」
ガタガタ震えながら何度も首を振っては知らないと繰り返し続けていると、声をかけてきた相手は深くため息をついた。
『お前何しに来たんだ』
「知らない知らな……え?」
『答えろ。ここに何しに来た』
ゆっくりと顔を上げると眼前に突きつけられる刀。咄嗟に両手を上げて戦う意思は無いと示しながら、剣先を目で辿っていく。そこに居たのは銀時が探していた人物。
「えっと……君を探しててここに来たんだけど」
『俺を?何の為に』
「ちょっと話をしたくて」
『話すことはない。そもそもお前は誰だ』
「俺は銀さんの義兄弟なんだけど……」
『だからなんだ』
「えっと……君のことを銀さんから聞いてたから話してみたいなぁって……」
海に嘘をつくのは心苦しいが、今バレる訳にはいかないので適当に話を合わせていく。海から向けられている鋭い視線と切っ先から逃げるように目を逸らすと銀時の眼前から刀が消えた。
『義兄弟……ね。そんな奴がいるなんて聞いたことないが……人に隠し事ばかりするやつだったから居ても不思議ではないか』
「そんなに隠し事してたつもりはないんだけど……てか、俺よりお前の方がよく隠してただろうが」
『何か言ったか』
思わず呟いてしまい、海にぎとりと睨まれる。
「なんでもないなんでもない!いやー、銀さんから聞いてたけどこんなに綺麗な人だとは思わなかったよ」
『あいつからどう聞いてるかは知らないが、俺には関係ないことだ。お前とする話もない。ここから立ち去れ』
刀を鞘へと納めて海は銀時に背を向ける。
「一人でこんなところに居んの?他の奴らはどうしたんだ?」
『聞こえなかったか?ここから立ち去れと言ったはずだ』
「用が済んだら帰るよ」
土埃を払いながら立ち上がり海の横へと立つ。
「少しだけでいいからお話しない?」
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