第252幕
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『先生、ここ無くなっちゃうの?』
「無くなりませんよ?どうしたんですか?」
村塾の子供たちが稽古をしている間、部屋の掃除をしていた海は今日耳にした話を松陽にぶつけた。
『さっき聞いたんだ。晋助くんたちの話』
「話、ですか?」
『うん。役人さんが松陽先生を捕まえるって。だからこの寺子屋は潰れちゃうんだって。この間神社にいた人達がそう言ってた。ねぇ、先生。ここは無くならないよね?先生がどっか行っちゃうなんてことないよね?』
ここが無くなったらみんなバラバラになってしまう。漸く仲良くなれた晋助や桂とも会えなくなる。先生と銀時とも離れるのなんて考えられない。
本当にここは大丈夫なのかと涙ぐみながら問いかけると、松陽はいつもの優しい笑みで大丈夫だと返した。
「大丈夫ですよ。海が思っているようなことは起きませんから」
『でも……』
「そんなに心配なら約束しましょう」
海の前にしゃがんだ松陽はそっと右手の小指を出した。そこに自分の小指を絡めて約束の呪いを呟く。
松下村塾は必ず守る。そう言った松陽の顔は嘘をついているように見えなかった。松陽がそう言うのなら本当に大丈夫なのだろう。完全に不安が拭われたわけではないが、海は松陽を信じて考えるのをやめた。
そしてその日の夜。
『うう……』
また悪夢に魘されて目が覚めた。気にしないように務めたが、嫌でも村塾のことを考えてしまう。そのせいで変な夢を見てしまった。父親が村塾を潰してしまうなんて有り得ない。ここにあの人は一度も来たことがないのだから。
水を飲んで落ち着こう。そう思って布団から出たとき違和感を感じた。
いつもの声がない。毎晩うるさいイビキが横から聞こえてくるのに今夜は聞こえてこないのだ。隣に敷いてある布団を見てみたが、そこには誰もいない。
『銀?』
どこの部屋を覗いても銀時の姿はなく、それどころか松陽すら居なかった。
『どこ……行っちゃったの?』
暗い廊下をふらふらと一人で歩く。些細な物音にもビクッと体が跳ねる。
もしかして自分は捨てられてしまったのか。
『銀時……先生……』
昼に松陽にあんなことを聞いてしまったから面倒だと思われたのか。だから二人でここを出て行った。海を置いて。
そんなはずは無いと思いたかったが、嫌な考えはポンポン出てくる。母親と同じように松陽も海の事が邪魔になったのだと思った瞬間、ぶわっと涙が溢れた。
『ごめ……ごめんなさい!もうあんなこと言わないから!ごめんなさいごめんなさい』
だから置いてかないで。一人にしないで。
誰もいない村塾でただひたすらに泣いた。どれだけ泣いても銀時と松陽が来ることは無い。それでもダムが決壊したようにとめどなく涙が流れていった。
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