第252幕
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それから毎日、道場破りの子供は村塾に顔を出すようになった。松陽とやりたがっていた彼は銀時に執着するようになり、いつからか銀時に勝ちたいがために竹刀を振っていた。
そして子供の興味は銀時だけでなく、海の方にも向けられていた。
「おい、お前」
『ぼ、僕……?』
「今はお前しかいないだろ。お前もあの銀髪みたいに強いのか?」
道場の床磨きをしていた海の元にボロボロになったら子供がふらりと現れた。先程、松陽と話していたからこっちに来ることは無いと思っていたのに。
『僕は銀時みたいに強くはないよ。竹刀だって持ったことないもん』
「ここの子供らはみんな稽古してるんじゃないのかよ」
『みんなはやってる。僕がやってないだけだよ』
「何でやらないんだよ」
『だって怖いもん』
稽古をしているのを毎日見ているからわかる。ビシバシと響く竹刀の音は酷く痛そうに感じた。村塾の子たちは何ともない顔でやっているが、海からしたら恐怖でしかない。
あんなモノで叩かれたりしたら痛いに決まっている。そんな事を進んでやりたくは無い。
松陽は今はやらなくていいと言ってくれた。銀時にいたってはやる必要は無いと。
『でも……いつか僕もみんなみたいに出来るかな』
「やれば出来るようになるだろ」
そう言って彼は持っていた竹刀を海へと投げ渡す。
「教えてやるよ」
『で、でも……僕まだっ』
「教えてやるって言ってんだから素直に教えられてろよ。俺に教えてもらえるなんて光栄な事だと思え」
『ええ……』
まずは竹刀の持ち方から教えられ、そこから基礎を無理矢理叩き込まれた。初めて持った竹刀は軽いけど重たい。何度も間違えては厳しく教えられ、最後の方は涙目になっていた。
『もう休みたい……』
「甘えたこと言ってんじゃねぇよ。侍になるならこれくらい耐えろ」
『うう……』
ただ床磨きをしていただけなのにこんなことになるとは。
それから数時間ほど教えこまれ、手も足も痛くなった頃に銀時が助けてくれた。
おかけで休むことは出来たが、目の前で繰り広げられる喧嘩に頭を悩ませた。
「お前、なに勝手なことしてんだよ!」
「そいつがやってみたいって言うから教えただけだ」
「コイツには教えなくていいんだよ!とっとと帰れクソガキ!」
「誰がクソガキだ!同じくらいのくせして」
口喧嘩が段々と取っ組み合いの喧嘩に発展していくのをあわあわしながら見つめる。そろそろ止めに入らなければ、と声をかけようとした海の前に松陽がぬっと顔を出した。
「なんの騒ぎかと思って来てみたら喧嘩ですか」
にこにこと微笑みながらゆっくりと銀時と子供の元へと歩み寄る。
あの顔はヤバい。それは銀時も分かっていることで、近寄ってくる松陽に苦笑いを向けた。
「喧嘩するほど仲が良いと言いますが、限度を知りなさい」
ガツンッと頭にゲンコツを一発。二人とも地面にズボッと埋まって気絶した。
「海」
『は、はいっ』
「どうでしたか?初めての稽古は」
『……怖かったけど……楽しかった』
「そうですか。なら今度からはみんなと一緒にやってみませんか?少しずつでいいので」
『うん!やりたい!』
恐怖を克服したわけではないが、さっきまであった恐れは薄れつつある。これなら銀時たちと共に稽古が出来そうだ。
いつか、銀時やこの子供のように自分も強くなれたら。銀時のことも松陽のことも守れるほど強くなれたら。
そうしたら母親が帰ってきてくれるかもしれない。そう思って力強く頷いた。
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