第241幕
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「悪いな!仕事中に呼び出しちまって」
『それは別にいいけど……何用で?』
「実はな、今日来てる志願者がすごいってみんな噂してるんだよ」
『それで俺が見極めろって?』
「今回はすごいぞ!三十人抜きしてるらしいからな!」
楽しげに笑う近藤に海はひっそりとため息を漏らす。
凄い凄いと言っていつも変なやつばかり隊に入れようとするのだ。この人の採用基準は当てにならないのは誰もが知っていること。
どうせ今回も腕がたつだけで性格に難があるか、前回のようにただがむしゃらに剣を振り回しているだけで勝ち進んでしまった奴だろう。
「来たか」
「どうだ?そっちは」
道場の入口で突っ立ていた土方が海たちに気づいて手元の書類から顔を上げる。
「剣の扱いには慣れてるみてぇだな」
「そうか!なら海ともやり合えるんじゃねぇか?」
『慣れてるくらいでこんなに持て囃さなくてもいいんじゃないか?期待を持たせるだけ可哀想だろ』
そばに居た隊士から竹刀を受け取って道場の中へと入る。奥の方では志願者にやられたであろう隊士たちがボロボロの状態で座り込んでいるのが見えた。
「むっ……!」
振り返った男は海を見て一歩後ずさる。
『おいおい……相手を前にして怖気付くやつなんて要らねぇんだよ』
「ま、待て!」
竹刀を構える海に男は焦りの声を出す。その声に聞き覚えのあった海はピタリと止まった。
『…………は?』
「いや、これには色々と……」
ごにょごにょと話す男に段々と顔が真顔になっていく。
何でこいつがこんな所にいるんだ。見つかればすぐ捕まって牢屋へと入れられるのに。まさか志願者として真選組に入ってくるとは。
どんだけバカなんだ。この幼なじみは。
『お前……その頭、ちゃんと脳みそ詰まってんのかよ』
「おい、海。どうした。始めていいぞ」
『あー……いや、ちょっと今は……』
土方に急かされるも海は竹刀を下げたまま。いっその事、ここで海が桂を倒してしまえばいいのか。それとも別のヤツに頼んだ方がいいのか。
『どうすんだよこれ』
慌てる桂を前にして海は暫し考え込む。その後ろで総悟が名乗りを上げようとしているのが聞こえた。
「海さんがやらないなら俺が相手しますぜ。この人、昨日徹夜してましたし。疲れてるんですよ」
「え!海また徹夜したの!?」
「お前、徹夜はやめろって言っただろうが!!」
何故こうなった。
桂の相手をするべきか否かで悩んでいただけなのに何で徹夜のことで後ろから怒られなきゃなんないんだ。なんなら前にいる桂もうんうんと頷いている。
今すぐその頭を引っぱたいてやりたい。
『お前らいい加減に──』
「あっ」
竹刀を握りしめながら土方たちの方を振り返った先、そこには一人の男が立っていた。
「珍しいですね。終兄さんが出てくるなんて」
ぬぼーっと立っている斎藤は海の持っている竹刀を指差す。
『お前がやるのか?』
海の問に斎藤は一言も声を発さず、ただこくりと頷いた。
『そ。じゃあ、任せた』
「海さん、これも渡してくだせぇ」
総悟から投げられた竹刀を受け取り、それも斎藤へと手渡す。竹刀を両手に持った彼は無言で桂の元へと歩き出した。
『斎藤が相手するなら俺はもう部屋に戻っていいか?』
「最後まで見ていったらどうだ。どっちが勝つか気になるだろ」
『気にならねぇよ。それよりこちとら仕事放ったらかしでここに来てるんだ。そっち進めねぇと』
部屋にはまだ確認していない書類が山のように残っている。朔夜を残してきたから少しは進んでいるかもしれないが、海でなければ処理できないものもある。こんな所で油を売っている暇はない。
「海、ちゃんと寝ないとダメだぞ?」
『ならそこにいるガキに自分の仕事をやるように言ってくれ』
「なんの事だか」
素知らぬフリをする総悟にイラッとしながら、海は近藤たちに背を向けた。
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