第241幕
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「兄さん!今日もやってるみたいだよ」
『人手が足りてないからだろ。最近の激務のせいで何人か倒れたって近藤さん言ってたしな』
「それは皆が弱いからじゃないの?あれくらいで倒れてたら何も出来ないよ」
そう言いながら朔夜は手元の書類へと筆を滑らせる。
最初に会った頃より随分と強くなったものた。真選組に入りたての頃は他の隊士たちに揉みくちゃにされてよく泣きべそをかいていたのに、今では他のやつに指示を飛ばせるほどに成長していた。
まだ子供の類に入るのに大人と変わらない考えや仕草をする朔夜に少しばかり教えすぎたかと少しだけ後悔。賢くなるのはいいことだが、段々と子供らしさが消えていっている気がして、教育の仕方を考えなければと最近思い始めている。
『今日は何人残るんだか』
「昨日は何人入ったの?」
『誰も残ってない』
「それは兄さんがやりすぎたんじゃなくて?」
『あんなもんでへばってたらここは務まらねぇよ』
「やっぱりそうなるよね。そもそも面接の時にちゃんと確認すればいいのに」
『それが出来たらこんなに苦労はしないだろ』
朔夜が苦笑いを浮かべるのをちらりと見てから自分も書類へと目を落とした。
数日前から屯所にて隊士の募集をかけている。
元々、定期的にひっそりと募集を掛けていたのだが、中々人が集まらないという状態だった。警察という責任の重い職というのもあるが、真選組が周りからよく見られていないというのも人が集まらない理由に入るだろう。
ヤンキー集団。チンピラ警察なんて呼ばれていたら誰だって近づきたいとは思わないだろう。そんな中でひっそりと募集をしたって人が集まるわけが無い。
そのため今回は大々的に人を呼び込むことにした。近藤に頼まれて求人広告への登録もしたし、門の前に新人隊士募集という貼り紙を貼ってきた。
そのおかげか、ちらほらと面接を受けに人が来るようになった。
誰でも受け入れるというわけにはいかないので、一次二次と段階を踏むことで相手の性格や真選組の規律についてこれる人間かどうかを判断している。
一次の面接は近藤と土方が受け持ち、二次の試験である実技は海が受け持っていた。
当然ながら、応募してきた約半数は一次の面接を受けたあと再度屯所に来ることは無かった。初っ端からゴリラとチンピラの相手なんかしたら二度と来たいとは思わないだろう。
それでも残った奴らは二次試験の実技でふるいにかけられる。体力や剣の技術がなければ真選組はやってはいけない。そう思って厳しめに、だが相手は初心者なのだからと手を抜いて挑んだ結果、昨日は誰一人として残らなかった。
『やりすぎたか』
「なに?」
『いや、次からはもう少し手を抜かねぇと誰も残らねぇなぁと』
「うーん……そうだね。兄さん手を抜いてても強いから。現役の隊士でも兄さんの相手をするのは骨が折れるよ」
『そこまで力は入れてないつもりなんだけどな』
「そう思ってるのは本人だけで、周りは違うからね。でも、変な人が入ってくるくらいならそれでいいかも。兄さんが最後の砦なんでしょ?責任重大じゃん」
言われてみればそうかもしれない。海から一本取れたら隊士として合格、なんてこと近藤が言ってしまったせいで、応募者たちは無我夢中で海から一本取ろうと竹刀を振り回してくる。
そうなってしまえば、流派やマナーなど気にせず突っ込んでくるのだ。別に格式を重んじろとまでは言わない。攘夷浪士を前にしてマナーがなんて言っていられないし、海も流派などに囚われることなく自己流で剣を振るっている。
ただ……。
『俺を負かすことに集中しすぎて負けるんだよな』
「どういうこと?」
『攻撃は最大の防御、なんて言うけど……。その攻撃に隙があったら防御にはならないだろ』
手数が多ければいつか当たるだろうという軽い気持ちで振っている剣が海に当たるわけが無い。
今まで相手してきた志願者たちはほとんどがそんな輩だった。無我夢中で竹刀を振り回していつの間にか負ける。いつ竹刀が身体に当たったのかもわからず、彼らは項垂れるのだ。
「やっぱり兄さんが最後の担当で良かったと思う」
『めんどくせぇ役を押し付けられただけだろ。こっちだってそんなに暇じゃねぇよ』
「そうだけどさ。でも、兄さんのおかげであの人たちは死なずに済むんじゃない?」
朔夜の言葉に海は首を捻る。
「勝ち負けに拘りすぎて周りが見えなくなったとき、それは死に直結するんじゃないかな。それを兄さんは体現してるんだよ」
まさか朔夜の口からそんな言葉が出てくるとは思わず、海はぽかんと口を開けて固まる。
「え、僕変なこと言った?」
『いや……何も……』
「そう?」
えへへ、と恥ずかしそうに笑う朔夜に海は胸が熱くなるのを感じた。
まだまだ子供だと思っていたが、それは海の勘違いだった。
精神的に大人になってきているのを喜ぶ反面、徐々に海の手から離れていくような寂しさ。
『(父親っていうのはこういうもんなのか)』
かつて、自分の成長をとても喜んでくれた人がいた。その人から教えて貰えることは全て学んだ。
時折、その人が嬉しそうな顔をしながらもどことなく寂しげな表情をすることがあった。その時は大抵笑って誤魔化されるのだが、今なら少しだけわかる気がする。
『(先生も寂しかったのかな)』
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