第260幕
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「で?お前はそんなずぶ濡れでなにやってんの?」
『……船の着陸の仕方がわからなくて』
「まさか海に飛び込んだって言うんじゃないでしょうね」
『その方が早いかと』
「お前はどんだけ馬鹿なの?」
島を脱出してから二日後、やっと本土に帰ってくることが出来た海は全身びしょ濡れの状態で新八の家へと顔を出していた。
新八の家に行く前に屯所の方へと向かったのだが、門前には立ち入り禁止のテープと見張りの人間が立っていた。近藤が脱獄したことがバレてしまったのだろう。だが、屯所に人を配置しているということはまだ捕まっては居ないということ。
近藤たちは安全な場所に身を隠している。怪我が治るまでは彼らは安易に顔を出さないはずだ。そうなると合流するのは難しいと考え、海は少し悩んでから新八宅に向かうことにした。
そしてひっそりと門をくぐったところで後ろからグイッと襟を引っ張られて今に至る。
「怪我は?」
『少し切り傷があるくらいで大したことは無い。それより近藤さんたちは……』
「生きてるよ。今は屯所に入れねえから別んとこにいるけど」
『無事に戻ってきてるんだな』
「海が投げたこれのおかげでな」
銀時から渡されたのは自分の刀と御守り。手渡された刀を鞘に納め、御守りを胸ポケットへと入れる。見た目はボロボロなのにまだこの御守りは効果が残っているらしい。
『まだご利益は健在みたいだな』
「そうじゃないと困るわ。お前はいつも無理するから」
『無理してるつもりはないけど』
「海はそう思ってなくても俺はそう思うんです!一人でフラフラしてると思ったら一緒に船に乗ってねぇし。やっと帰ってきたかと思ったらこんな濡れてるし」
『遅くなったのは謝る。濡れてるのは許せ。これは仕方ない』
「何が許せだ。許せるかばか」
濡れているのにも関わらず銀時は海を強く抱きしめる。ここにちゃんと居ることを確かめるように。
「……良かった、無事で」
『ごめん。心配かけて』
「本当だわ。こちとら眠れなかったんだからな」
『今日はちゃんと眠れるだろ?』
銀時の背中に腕を回して優しく撫でる。耳元で鼻を啜る音が聞こえて海は小さく笑った。
『言ったろ?お前を置いて死ねないって。ちゃんと帰るから心配すんなよ』
「分かってても不安なもんは不安なんだよ。心配かけたくないならちゃんとそばに居てくれ」
『ったく……しょうがねぇな』
ちゃんとここに居るから大丈夫。そう伝えるように銀時を強く抱きしめる。
冷えていた身体が少しずつ温まっていく。ああ、ちゃんと帰ってこれたんだなと思ったら一気に身体の力が抜けた。
「海!?」
『悪い……ここまで寝てなかったから』
「おま、感動的な再会なのに寝るのかよ!」
『無理……限界……』
眠さで頭がぼーっとし手を動かすのも億劫。このまま寝かせて欲しいと銀時に言って目を閉じる。
「なんなの?!もう少し再会を喜ぶとかないわけ!?」
『別にちゃんと帰ってきたんだから……いいだろ。そんなにおこるなよ』
「こんなの怒りたくもなるだろうが!少しくらい浸らせてくれても──」
『これで許してほしいんだけど』
「……こんなこと何処で覚えてきやがった」
『なんかの漫画』
「無駄な知識ばっか覚えやがって!」
ぷりぷり怒っていた銀時の口を自分の口で塞いだだけなのに何故か余計に怒られた。
そして再度口付けられる。海がした触れるだけのキスとは違って口内を荒々しく貪られるキス。息をするのも苦しくなってきた頃に唇が離れていく。
「下手くそ。キスってのはこうすんだよ」
『し、らねぇよ……』
「おこちゃまな海くんにはわからないことですもんねー」
必死に息を整えていると銀時に抱えあげられてどこかへと運ばれる。
『銀?』
「新八の家じゃ危ないんだわ。それにアイツらだって心配してるからな」
『珍しいな。銀時が土方たちのこと思いやるなんて』
「たまにはな」
隠れ家に着くまでは寝ていていいと言うのでその言葉に甘えさせてもらうことにした。身体に伝わってくる振動はとても心地よく、すぐに眠りにつけそうだ。
「おやすみ、海」
『おやすみ』
優しげな銀時の微笑みを最後に海はゆっくりと目を閉じた。
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