第260幕
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「朔夜、いつまでもそんなところにいないで中に入ったらどうだ?」
「でも……」
「俺らがここにいることはあの人は知らないんだ。そこで待っていたって海さんは来ない」
「そうだけど……でも、もしかしたら」
膝を抱えて朔夜はじっと玄関口を見つめる。ここに座り続けてからかれこれ数時間。朝食もそこそこにしてずっとここで海を待ち続けていた。
近藤を救出してから総悟たちは屯所には帰らず、喜々の目の届かない所へと逃げ込んでいた。
このまま素直に屯所に戻ろうものなら近藤だけでなく総悟たちも捕まる。自分たちは今、近藤の脱獄を手伝った犯罪者。
そして佐々木が起こした謀反により喜々は警察組織を一新すると言って次々と配下のもの達を城から追い出している。そんな時にひょっこり顔を出そうものなら無事では済まないだろう。
だからこうして身を隠している。奈落との戦いで負った怪我が治るまでは街をふらつくことは出来ない。
「海さんはきっと無事に帰ってくる。だから心配するな」
「なんでそう言い切れるの?」
「あの人はいつも帰って来てただろ」
「総悟はいつもそうだ。必ず帰ってくるから心配するな、絶対戻ってくるって。もし戻ってこなかったらどうするの?もし……もし兄さんが死んでたらどうするの!?」
バッとこちらを振り返った朔夜はその勢いのまま総悟へと掴みかかる。けたたましい音を立てて倒れたせいで何事かと土方がこちらを見に来てしまった。
「おい!お前らそんなところで何してやがる」
「なんでもありやせん」
総悟に馬乗りになって腕を振り上げている朔夜にすかさず土方が止めに入ろうとしてくるが、総悟は邪魔するなと手を上げた。
「兄さんが……兄さんが死んじゃったら……!」
「海さんはそんな簡単に死ぬような人じゃない」
「そんなの分からないじゃないか!奈落にあれだけ襲撃されたんだ!僕達だってあんなに戦って、皆死んでいった!近藤さんも土方さんも……総悟だっていっぱい怪我したのに!」
「海さんの死体は見てない。誰もあの人が死んでるところは見てないだろ」
近藤さんを助けるべく森の中を走り回ったけど、どこにも海らしき死体はなかった。自分が見落としているだけなのでは無いのか、もしかしたらどこかに居たのかもしれないと思ったが、あの場にいた万事屋メンバーの言葉を信じることにしたのだ。
──あいつはまだ生きてる。絶対に帰ってくるから。必ず。
「旦那も言ってただろ。必ず帰ってくるって」
「そんなの信じられないよ!!」
ボロボロと泣き出したかと思えば、朔夜は外へと出ていってしまった。
「はぁ……これだから子供の相手は疲れるんですよ」
「お前もそう変わらねぇけどな」
「俺は海さんのこと信じてるんで」
「その割にはソワソワしてるじゃねぇか」
むくっと起き上がって朔夜が走っていった先を眺める。
朔夜のように泣いたり怒ったり出来たらどれだけ楽だろうか。海が帰ってこなくて不安なのは朔夜だけじゃない。自分も土方も他の隊士たちも皆、海の帰りを待ち続けている。きっと生きて帰ってきてくれると信じているのだ。
「あの人、まさか迷子になってたりしませんよね?」
「……無いとは言いきれねぇだろ」
地図があっても迷う人だ。あの島から脱出することが出来たとしても江戸まで戻ってこれる可能性が低い。陸地にたどり着いたら良しとして、海で迷い続けていたら……。
「土方さん、船って出せないんですか」
「無理だ。今飛ばそうものなら将軍に撃ち落とされるだろうよ」
「チッ……あのイカレ野郎が」
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