第259幕
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『助けてやったのになんで落ちてきてんだよ』
「すみませんね。あのタイミングで撃たれるとは思わなかったので」
『ったく……最後までめんどくさいやつだな』
近藤たちが乗った船を眺めながら海は大きくため息を漏らす。
今まで奈落の相手をしていた海には近藤たちの方で何があったのかは分からない。奈落の砲撃が森の方ではなく一箇所に集中し始めたことに気づいてこの場所へと出てきたのだが一歩遅かった。
土方には事前に伝えてあったこと。どれだけの仲間が死のうとも近藤を第一に考えて行動し、この島から脱出しろと言ってある。だから置いていかれることにはなんも不満は無い。
けどこんな荷物も置いていくとは思わなかった。
見上げていた船に奈落がいたことに気づいて刀を投げた。彼らが無事に江戸に辿り着けるように祈りながら鍔にお守りを結んで。
『それなのにお前ときたら』
肩に担いでいた佐々木をどさりと地面に落とす。落とされた衝撃で痛みに呻く彼を呆れた顔で眺めた。
『こんなところに戻ってくるなんてどういうつもりだ』
「戻ってきたくて戻ってきたわけじゃありませんよ。船の中に貴方が見つからなかったので仕方なく」
『俺が居なかったから戻ってきただ?』
「ええ。貴方には伝えておかなくてはならないことがあるので」
絶え間なく血が溢れている傷口を押さえながら佐々木は起き上がり木の根元に寄りかかる。
「桜樹さん、貴方ご自身のご両親についてどれだけの事を知ってますか」
『……何が言いたい』
「貴方のお父上は幕府の官僚。しかも天人と精通していた人間でしたね」
淡々と話す佐々木。今更それがなんだと吐き捨てようとしたが、佐々木は海の顔をちらりと見てため息をついた。
「その様子では何も知らないようですね」
『あの男の件は終わったはずだ。これ以上蒸し返す必要も無い』
「ええ。貴方のお父上の件なら既に終わってます。彼の話ではなく、貴方の"お母様の"話ですよ」
『母親?』
「貴方のお母様の桜樹 深雪。彼女のことはどれだけ知っていますか」
まさか佐々木の口から母親の名前が飛び出してくるとは思わなかった。思いもよらない名前が出たことで海は戸惑いを隠しきれない。
『なんで、母さんを……』
「桜樹 深雪。貴方のお母様である彼女はかつて天照院奈落に属していた可能性が高い」
『……は?』
「今回の作戦を行うに当たって色々と調べたんですよ。どうすれば倒幕の一手を担えるかと」
『それとなんの関係があるんだよ。母親が奈落に属していたなんて有り得ないだろ。あの人は常に西ノ宮に怯えていた。そんな人が暗殺集団にいるわけがない』
思い出せるのはあの辛い日々だけ。母と共に西ノ宮の暴言と暴力に耐え続けた記憶。海を守るために盾になり続けた母はかなりの傷を負った。身体的にも精神的にも限界だったはずだ。痛みを背負いながらも海に向けてくれた笑顔はとても優しかった。そんな人が影で人を殺めていたとは到底思えない。
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