第258幕
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「し、新八さん!」
「朔夜くん!気をつけて!!」
戦況は大きく変わった。最早これは真選組と見廻組のだけの話では無い。
突然の砲撃に身構えた朔夜の前に現れたのは奈落の軍勢。近くで戦いあっていた隊士や見廻組は奈落の手によって皆バタバタと倒れていく。
「新八さん、僕から離れないで」
「う、うん」
山崎を庇っている新八ではあの軍勢から逃れることは出来ない。新八一人でも奈落の相手をするのは難しいはずだ。ここは自分が守らなければ。
「朔夜!お前の上司は何処にいるアルか!」
「神楽ちゃん!」
「もうこれは白いのも黒いのも関係ないネ!あいつら誰彼構わず殺してるアル!」
奈落を蹴り飛ばしながら神楽は新八を背にして朔夜の隣に立つ。
「なんで奈落がこんなことを……だって見廻組と奈落は繋がってたんじゃないの!?」
前将軍が死んだあとに就いた将軍の手によって見廻組は真選組を抑えた。松平の代わりに佐々木が長官となったし、現将軍である喜喜から絶対的信頼を受けていると思っていた。それなのになぜ。
「もしかしたら……どっちかが裏切ったのかも」
「裏切るってそんなこと簡単に……!」
新八の言葉に反論しつつ、朔夜は佐々木の性格を思い出す。何を考えているか分からない男。腹の見えないあの感じは話していて気持ち悪さを感じた。
「まさか……」
「今は考える暇ないアル!」
目前に迫っていた奈落にハッとして刀を構えるが、間合いに入られてしまったせいで腹に一撃重たいのを食らった。
「ゲホッ!」
「朔夜くん!」
「だい……じょうぶ!」
痛む腹を我慢して再度刀に力を込める。初手で斬り殺されなかっただけマシ。いや、相手のミスだ。
「殴るだけなんて甘いよ。最初の一撃で相手を潰さなきゃ」
情けなんていらない。そんな事をしていたら殺されてしまうのだ。殴ってきた奈落の腹目掛けて切っ先を突きつけ、避けられた瞬間に追撃をかける。
「な、なにその動き……」
「兄さんがやってたんだ。アニメで見たんだって。フェンシング?とかって言ってた」
「補佐っていつもそういうので学んでるの?!」
「さぁ。たまたまなのかな」
いつだったか稽古中に教えられた技だ。まさかこんなにも上手く嵌るとは思わなかったが。
「今は剣技がどうのなんて言ってられないよ。とりあえず生き残らないと」
「そ、そうだね!」
「朔夜!お前の上司と信女を探すネ!」
新八と山崎を他の人らに任せ、神楽と共に総悟と信女を探しに走る。頭上からの攻撃を避けつつ、奈落を蹴散らした先に総悟たちを見つけた。
「神楽ちゃん!二人とも居たよ無事みたい!」
「アイツら……!」
こんな状況なのにも関わらずまだ二人でやり合っている。彼らはもう周りが見えていないくらい集中してしまっているのだろう。そんな二人を止めるべく神楽は交じり合おうとした剣の間へと身をすべり入れた。
「そこまで!もういい……もう十分アルお前ら」
「総悟!もうやめた方がいいよ!」
二人の間に神楽と共に入った事により刀は下ろされたが、未だに両者は殺気を放ったまま。
「朔夜、そこどけ」
「どかないよ。もうこんなことしてる暇無いよ」
「このまま後ろから斬り殺しても?」
「いいアルよ。お前が本当にそうしたいと思ってるなら好きにしろヨ」
信女に背を向けている神楽へと向けられる刀。相手に止まる意思がないならば無理やりにでもと刀に手をかけた朔夜に神楽は首を振った。
「でも……もう泣くなヨ。自分にウソはもうつくなヨ。私もそうだった。でもここで……みんなと出会って……変わった。この星は自由の星ネ。自分の生きたいように生きていいアル」
神楽の言葉に信女は何かを考え込むように俯いた。きっと思うことがあったのだろう。詳しいことは分からないが、きっと彼女なら大丈夫だと。それだけは確信した。
その瞬間、俯いていた信女がパッと顔を上げて刀を手に取る。神楽へと斬り掛かるつもりかと臨戦態勢を取ろうとしたが、信女の刀が神楽に向けられることは無かった。
「信女ー!!」
刀で鎖を弾き飛ばした信女の腹に小刀が刺さる。信女が膝をつくまでたったの数秒。何があったのか分からなかった朔夜たちは信女を見て狼狽えた。
「オイ!しっかりするアル!」
「まさか奈落が!」
「朔夜、今どういう状況だ。簡潔に説明しろ」
「総悟と信女さんがやり合ってる間に奈落が来たんだよ。真選組も見廻組も関係ない。みんな奈落に斬られてる」
「どういうことだそりゃ」
「分かんないよ……きっと佐々木さんがなにかしたんだと思う」
「そういうことかよ……まったく。土方さんも海さんもいないっていうのに」
何かを理解した総悟はボソリと呟いてから崖下の森の方を眺める。至る所から黒煙が上がっているのを見る限り、海たちの方も無事では済まないだろう。
「兄さんたち……大丈夫かな」
「マヨラーの方はどうか知らねえが、海さんなら大丈夫だ」
「でもこんなんじゃ兄さんだって」
「あの人は何があっても帰ってきただろ」
「それはそうだけど」
「海さんなら絶対近藤さんを連れて帰ってくる。そうじゃなきゃ……」
不安に思っていたのは自分だけじゃない。総悟もまた海たちが無事に戻ってくるか分からなくて不安を感じている。朔夜を安心させるために大丈夫だと繰り返しているけど、その言葉は自分自身に言い聞かせているように聞こえた。
「そうだね……兄さんならきっと戻ってくるよね。だって誰よりも強いもん」
「ゴリラとマヨラーを引きずって帰ってくるだろ。あの人くらいしかあの二人守れないだろうしな」
「確かに!」
きっと大丈夫。そう言い聞かせて笑った朔夜たちの元へと近づいてくる足音。
「なに……あの人……」
今まで感じたことの無い重圧。気配だけで潰されてしまいそうになる。総悟も神楽も相手を見つめたまま固まってその場から動けなくなった。
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