第257幕
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『ここに辰馬が居なくて良かったな』
「何でだよ」
『また言われるぞ?船を薪にするなって』
「覚えてねぇよそんな昔のこと」
『ならあとで桂にも言われればいい』
「お前さっきお妙に遊ばれたから拗ねてるんだろ」
『違う』
正面突破が難しいのなら後ろから侵入すればいい。そう考えて海たちは裏手の崖の方へと来ていた。
ここを登れば相手に気付かれずに侵入出来る。だが、人が登れそうな足掛けは無い。
「どうすっかなこりゃ一筋縄ではいかないだろ」
神楽が上に行くかと思いきや、総悟と土方をぶん投げて崖の中腹からロープを垂らすと言ったが、そんなんで上手く行くはずもなく、ただ二人が無意味に怪我を負っただけで終わった。
『銀時、木刀貸して』
「何に使うんだよ」
『足場が無いなら作ればいいだけだろ』
「え、まさかお前これ登る気!?」
『それしかないだろ。俺の刀じゃ直ぐに折れるから……あとは』
自分の刀を崖に突き刺そうものなら直ぐにヒビが入る。銀時の木刀であれば何故か傷つかないから大丈夫だ。足場にするにはもう一本支えになる物が必要になる。それをどうするかだが……。
「使え」
『良いのか?』
「こんなところで油を売ってるわけにはいかないだろう」
『そりゃそうだけど』
「刀身を使われたらまずいが、鞘なら問題ない」
土方から投げ渡された刀を受け取る。それを使って早くロープを垂らしてこいと言われ、海は木刀と刀を使って崖を登り始めた。
⋆ ・⋆ ・⋆ ・⋆
「あいつの前世は猿だったのか?」
「そんなわけねぇだろ。ちょっと運動神経いいだけだ。多分」
この光景は初めて見るわけじゃない。確か以前にも見たことがある。あれはなんだったか。
「ああ、カブトムシの時か」
木刀と刀を交互に足場にして崖を登っていく海をヒヤヒヤしながら見守る銀時に土方は難しい顔を浮かべた。
「あれも攘夷志士時代に身につけたものなのか」
「んなわけねぇだろう!!あんなこと俺がさせると思うか!?」
「まあそうだろうな」
壁をよじ登る競技は聞いたことがある。そういう特技を持っている人達がいるということも。だが、あれはそれとは全く違う。手をかけるところが一切ない場所を海は刀を使って登っている。命綱もない状態で彼は顔色一つ変えずに。
もし誰かにやれと言われても銀時は出来ないだろう。
「俺の知らないところで変な特技作るのやめて欲しいんだけど」
この状況だから助かるっちゃ助かる。だけど、危険なことには変わりないのだ。もし足を踏み外したりして落ちてきたらひとたまりもない。いつ海が落ちてきてもいいように下で銀時と土方が構えてはいるが、どうか無事に上まで上がりきって欲しいと願い続けた。
海が登りってから数十分。頂上まで行った海が姿を消したあと、銀時達の元へと数本のロープが降ろされた。
『気をつけて登れよ?』
「なんだかなぁ」
本当ならこの策を思いついた銀時がどうにかしなければならないのだが、銀時にも出来ることと出来ないことがある。その部分を海がカバーしてくれているのだと思うと、なんだか胸が熱くなるのだが……その代わり己の情けなさで顔が上げられない。
「(有能過ぎて辛いんだけど。俺だってもっと……)」
海のこと助けたいのに。なんて思いながら銀時は黙々と崖を登り始めた。
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