第257幕
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奈落の中を走り回る海の姿に懐かしさを覚える。あの光景を見るのも十数年ぶりとなるのだろう。
「撹乱ってどういうことだ」
「だからそのまんまの意味」
こんな場所じゃあまり意味を持たないだろうけど、海の動きは奈落の動きを封じて混乱を誘発している。
「ぼさっと見てねぇで俺らも行くぞ。あんだけ激しく動いてるんだ。そろそろバテちまう」
「あ、ああ」
ぼうっと海を見ている土方に声をかけ、銀時は木刀を握りしめた。
天人との戦争の中、海は一つの部隊を率いていた。銀時や高杉も仲間たちを連れ立って戦場へと赴いていたが、それはただ単に隊を組んでいれば他の奴らの生存率を上げることが出来るという目的だった。
だが、海の部隊は銀時たちとは違った理由で作られている。少人数で組まれたその部隊は皆、動体視力と俊敏さが売りだった。
「かつて海が率いていた部隊は敵の撹乱を主にしていた。他の仲間を誘導して敵陣を潰したり、伝達を遅らせるためにときには偽の情報流したりとかな」
「そんなことしてたのか……」
「これはまだ隊の方だ」
部隊の方は裏方の仕事をこなしていた。たまに戦場で会うことはあれど、一緒に背中をあわせて戦ったことはない。なんせ彼らは実戦向きではなかったから。
そんな彼らを守り通したのが海だ。部隊が円滑に動けるように海が率先して敵の中心へと飛び込む。それを幾度となく繰り返していた。そのため部隊の生存率は比較的高く、海の隊に入りたいと望むものもちらほらといたくらい。
「……その分、アイツは傷ついたけどね」
隊を守るために海は一人で大勢の天人を相手した。銀時たちが戦いやすいようにするという目的もあったのかもしれないが、自分の隊を守るためでもあった。
その重責のせいか、海は時々壊れてしまう。
『なんだよ。そんなに強くねぇなお前ら』
燃え盛る火の中、海は奈落の死体を足蹴にして笑う。とても綺麗な笑みなのに不気味に感じて仕方ない。
『つまんねぇな。所詮人間はこんなもんか』
刀に付いた血を振り払い、次の獲物に向かって振り下ろす。目の前で繰り広げられる光景はただの地獄絵図だ。いたるところで首が飛び、腕が飛び足が転がる。
そんな海の姿を土方は呆然と眺めることしか出来なかった。
「あんなの……知らねぇ」
「今までストッパー掛かってたからだろ」
「ストッパー?」
「あんたの局長さん。話は聞いた。海と一度だけやりあったんだって?」
「そうだが……あの時はこんなじゃなかった」
「本当に?あのゴリラは分かってたみたいだったけど」
海に火を付けてしまったと言っていた近藤はその時のことを思い出して怯えていた。これまで攘夷志士や凶悪な犯罪者などを相手してきたあの近藤がだ。
「普段はああはならねぇけど、戦うことに夢中になったりするとタガが外れんだよ」
土方たちが乗っていた船をちらりと見る。あちらはもう落ち着いたようで、神楽と新八がこちらを心配げに見つめていた。
そろそろ海の事を止めた方が良さそうだ。
「海、そろそろやめたら?」
『まだ、』
「まだじゃありません。それにもう誰もいないでしょうが」
海の周りに立っている者はもう銀時と土方だけ。奈落は全員肉の塊と化している。
「海」
『……銀』
「うん。疲れたな」
電池が切れたようにプツンと脱力して海は銀時へと寄りかかる。手にしている刀を鞘へと戻し、海の手を引いてその場を離れた。
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