第254幕
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「ねぇ、兄さん。そよ姫は大丈夫なのかな」
『……どうだろうな』
国民に見守られながら行われた将軍の葬式。
まさかこんなに早く行われるとは思わなかった。守り抜けたと思ったのは間違いだったようだ。
江戸から京へと移っただけでは足らなかった。もしかしたら将軍が京で画策していたことを知ったのかもしれない。いや、元々、喜々は茂茂を抹殺しようとしていた。京へ行こうとどこへ行こうと探し出して殺していたのだろう。
皆がすすり泣く中、海はじっと霊柩車を見ていた。
数日前まで元気に笑っていた人間が呆気なく死んだ。それも幼馴染の手によって。
『どうしたらそこまで憎めるんだかな』
「兄さん?」
『上に立ちたいが為に他者を蹴落とす。俺にはそれが理解できない』
たとえそれがこの世界の真理だったとしても理解したくない。
「……ど、どうしよう……」
『うん?』
大人しく警護にあたっていた朔夜が上着のポケットをパタパタと叩きながら青ざめた顔をしていた。スボンのポケットに手を突っ込み、衣服のあらゆる収納ポケットをまさぐったあとボソリと「無い……」と呟いた。
『何かなくしたのか?』
「て、手帳が……なくなっちゃった……」
『……おい』
肌身離さずに持ち歩くように口酸っぱく言った物。自分の身分を証明するのに必要な警察手帳をなくしてしまったと朔夜は消え入りそうな声で言った。
『どこかで出したりしたのか?』
「してない……と思う。外に出てから出てないよ」
『なら屯所に置いてきたんじゃないのか?』
「でも、いつも上着のポケットの中に入れて──」
そこで「あっ」と目を見開く。
「トイレだ」
『は?』
「手ぬぐいを出そうとした時に洗面台の上に……置いちゃった」
『ということはまだそこにあるってことか』
「に、兄さん!?どこ行くの!?」
『取りに行くしかねぇだろ。隊服を着てたとしても手帳がないなら意味が無い』
もしもの事を考えて、手帳は手元にあったほうがいいだろう。海も一度だけ手帳を持たずに屯所を出たことがあり、その時にめんどくさい事になったことがある。
『刀を使うってなったら困る』
「それなら自分で取りに行くよ!」
『直ぐに戻るからそこにいろ。お前が取りに行ったら戻ってくるのに時間が掛かるだろ』
剣さばきは速いのに何故か朔夜はやたらと足が遅い。持久力もないのですぐにバテる。ここから屯所までは結構な距離があるから、海が行った方が早く戻ってこれる。
「ごめんね、兄さん」
『次からは忘れないようにしろよ?』
「うん。気をつける」
俯いた頭を撫でて、海は人混みの中を早歩きで進んだ。
『なんだか昔の自分見てるみたいな気分だな』
朔夜は昔の海にまんま似ている。体力のなさもドジなところも。
体力は大人になれば自然と身につく。十代前半の朔夜にあれこれ言ったってどうしようもないだろう。それに周りのヤツらが規格外なだけで、朔夜は普通の子供らと変わらないはずだ。
あの頃の自分と同じで。
『銀時や晋助が体力バカなだけだろ』
そもそも比べる相手が違いすぎるのだ。兄弟揃って周りの人間に恵まれているのかそうでないのか。ひっそりとため息をつきながら、屯所へと走り出した。
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