第218幕
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「すごい!!兄さん!すごいよ!!」
『分かったから少しは落ち着けって』
走り始めてからまだ数分。後ろに乗っている朔夜はこれでもかと騒いでいた。
ヘルメットにインカムを仕込んでいるので、走行中でも朔夜の声がハッキリと聞こえる。そのせいでかなりうるさい。
「風が気持ちいいね!こんなの初めてだよ!」
『そりゃようございました。楽しむのはいいけど、ちゃんと掴まってねぇと落ちるぞ』
「うん!!」
景色を見て喜んでいるのはいいが、たまに手元が疎かにある時がある。その度にスピードを落としては声をかけて注意を促すしているのだが、数分もすれば言われたことをすっかり忘れてしまう。
『(楽しいのはいいけど、これは危ないな)』
このままではうっかりが起きてしまいそうで怖い。そろそろ本気で注意しないとマズイと思った時、胸元のポケットに入れていた携帯が震えた。
『朔夜、一旦止まるぞ』
声をかけるも朔夜は感動に浸ってしまっていて無言。
携帯はまだ震えていて、それがメールではなく電話だということに気づいた。
『何かあったか』
急いで道路から離れ、近くの路地へと入り込んだ。
「どうしたの?」
『電話きてるんだよ。これは何かあったな』
「えっ」
バイクに跨ったままヘルメットを外して携帯を取り出すと、画面には近藤の文字。
『もしもし』
"あっ、海?外出中に悪いな"
『いや、大丈夫だけど……何かあったか?』
"岡っ引きからの報告で、四井銀行に強盗が入ったらしい"
『銀行強盗?被害は?』
"金は持ち去らず、人質二人を連れて逃走中だ"
人質を連れているのであれば早々に見つけ出して捕まえなくては。だが、近藤の話だけでは相手の情報が少なすぎる。
『わかった。その銀行に急行する』
"悪い、海。朔夜と出かけてるってとこなのに"
『仕方ねぇよ。俺らの仕事はそういうもんだろ』
犯人の行方がわかり次第連絡すると言って電話を切る。携帯をポケットへと戻し、海は朔夜の方へと振り返った。
『仕事だ。銀行強盗だってよ』
「銀行強盗?盗みに入ったってこと?」
『ああ。しかも人質連れて逃げてるってさ』
「じゃあ、早く助けてあげなくちゃ!」
休みの日なのに仕事が舞い込んできたことを怒るかと思ったが、そんな心配はいらなかったらしい。朔夜も警察の一員としての責任をきちんと理解している。
『成長、か』
「なに?」
『いや、なんでもない』
自分の知らない間に朔夜は大人になってきている。子供の成長は早いとよく聞くけど、こんなにも早いものなのか。それとも朔夜の順応力が高く、臨機応変に対応出来るようになったということか。
『(そろそろ兄離れも近いか)』
甘えてばかりではいられないことを薄々勘づいてきているのかもしれない。
それが少しばかり寂しいと思ってしまった。
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