第208幕
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「こたびの働き誠に見事であったな佐々木殿。負傷したのにも関わらず任務を全うされた貴殿の忠誠心には喜喜様も感嘆されていたぞ」
怪我の手当で病院に入院している佐々木は携帯を弄りながら根津の話を聞き流していた。
連絡をしている相手は今はまだ眠っているであろう海。メールで今回の一件のことを説明しつつ、彼の手によって見廻組がパシられたことの文句。それとこれからも良きメル友でいて欲しいという文面を細かく分けて何通ものメールとして送り続けていた。
これは嫌がらせではない。決して。
「根津殿、ここは官営の医療機関。どこで誰が何を聞いているか」
「なあに、時流はすでに一橋一色。我々に逆らえる者などもういない」
ニヤニヤと笑う根津の後ろから感じた気配。隠す気もなく踏み込んできたのは黒服の男たち。
「いえいえ、壁に耳あり障子に目あり……肩に……」
「フェアリーと言うでしょ」
妖精というにはあまりにも厳つくゲスい顔の土方と近藤。相変わらずな彼らに佐々木はなんとも思わないが、慣れていない根津は恐怖に支配され慌てて病室を出ていった。
「まさかあなたたちが見舞いに来てくれるなんて。本当にあなたたちは見かけによらずフェアリーのような心の方たちだ」
「なあに、未来の警察庁長官殿だ。今からゴマすっとくに越したことはねえだろ。葬式ぐらい参列すらぁ」
仄かな殺気を漂わせながら土方は腰にある刀を掴む。ここが病院であるということも忘れてそんな気迫を放つのだ。だから真選組は評判が悪いということに彼らは気づかないのだろうか。
「ふん……今更利用されたことに気づいて私を斬りに来たとでも?」
「悪政を正せるのであれば喜んで利用もされるさ。だが、俺たち家臣を守るためその咎を一身に背負われた殿を利用したとあらば黙っているわけにはいかん」
彼らの頭の中はお花畑で綺麗なのだろう。一番、定定を地獄に引きずり落としたいと願った者が誰なのかを知らない。その彼が全てのものを利用したということにも。
「(言ったところで彼らは信じないでしょうけど)」
身内に幕府の壊滅を望んでいる者がいることに彼らは一生気づかなければいい。その方が今後の楽しみは増えるのだから。
「そんなことより彼は起きたのですか?」
「そんなことよりだ!?テメェ、ふざけたこと言ってんじゃ──」
「トシ!!」
「結構な深手を負っていたようですが」
「まだ海は眠ったままだ」
「そうですか。生きているのであれば問題ないでしょう。見つけた時は死んでいると思いましたからね」
「なんでテメェが海の心配すんだよ」
「だって大切なメル友ですから。失うわけにはいかないでしょう」
そんなの建前であって本当の意味はほかにある。大ボラ吹きの男に頼まれた面倒な話だが。
「海を病院に搬送してもらった事は感謝している。佐々木殿が見つけていなければ海の命は……」
「たまたまですよ。私でなくても誰かが見つけていたでしょう」
本当に海を見つけたのは偶然だった。
なんとなく城の中を歩いていた時に見つけたもの。それは点々と続いていた。まるで海がそこに倒れているのを指し示すように。
「あの針がなければ彼のことは見つけられなかったでしょうね」
ふっと笑う佐々木に近藤と土方は眉をしかめる。
そんな時、慌ただしく走る足音が廊下から聞こえてきた。
「おい!!てめぇら、海を見てねぇか!?」
「万事屋?お前なんでここに……」
「海が……海が病室から消えた!!!」
驚く近藤と土方。そんな彼らを他所に佐々木はひっそりとほくそ笑む。
「(やはり彼は面白い男だ)」
あれだけの怪我を負っていながら復讐にかられて動き出す。佐々木の期待通りに動いている彼の動向をある人物へと教えるべくメールを打った。
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