第208幕
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燃え盛る建物を前にして海は呆然と立ち尽くしていた。
平屋の家から引きずり出されたのは子供二人と大人一人。黒髪の子供は泣きじゃくりながら銀髪の子にしがみつき、銀髪の子はその子を守ろうと必死に手を伸ばしていた。
そんな二人を悲しげな顔で見る男。助けてあげたいのに助けられず、悔しげに手を握りしめていた。
表へと投げ出された子供たちと大人は後ろ手に縛られ地面に膝をつかされる。暴れる銀髪の子の首元にいくつもの棒が向けられ身動きが取れなくなった。
その光景を海は黙って見つめる。助けに行きたくても、やめろと声をあげたくても海は指一本動かせない。
子供たちを置いて男だけが連れ去られていく。離れていく背中に向けて子供らは泣きながら呼びかけるも、男はただ緩く微笑むだけ。
"いいですか、銀時。お友達を……海を守ってあげてください。約束ですよ?"
それだけを言い残して松陽は突然現れた幕府の遣いに連れ去られて行った。
何も出来なかった二人の子供は己の無力さを恨み、この国を憎み、そして彼を必ず取り戻してみせると誓って。
『嫌な夢だな』
苦虫を噛み潰したような顔で海は呟く。その声は掠れていて、聞いた人からしたらただの吐息にしか聞こえないものだった。
死んだと思ったのに生きている。
海の最後の記憶は朧に胸を突かれた時。心臓を直に掴まれて潰されたのかと思うほどの痛みとあばらの折れる音。あぁ、これは死んだなと思ったのと同時に海の意識は落ちていた。
それなのに海はこうして生きている。あそこからどうやって生きて帰ってきたのかはわからないが、朧は海にとどめを刺さなかったということだけは確か。
『(生かしておく意味があんのか)』
定定の首を討ち取らんと乗り込んできた海を生かす理由がわからない。海ならば後々邪魔になる存在としてあの場でとどめを刺すだろう。
それなのに……。
『意味……わかんねぇ』
朧。あの男は謎が多すぎる。剣を交えていた時も思ったが、ヤツは不死身なのかというほど死から遠い存在だった。何度も急所を狙ったはずなのに倒れるどころか地面に膝をつくこともしない。出血だってそれなのりの量だったはずだ。
だが、最後まで朧は戦い続け海を倒していった。
『人のこと……化け物とか言っておいて……自分の方が化け物だろうが』
あれだけ斬られて倒れないなんて化け物すぎる。
あんな人間見たことない、と思ったが知り合いに似たような人物がいることを思い出して笑った。
『お前も……変わんねぇわ』
海が寝ているベッドに突っ伏して眠っている銀色。彼もまたどれだけ傷ついたとしても何度でも立ち上がる男だ。
『生きて、る』
部屋が真っ暗だから彼がどういう状態なのかはわからない。でも、聞こえてくる規則正しい寝息がちゃんと生きていることを教えてくれた。
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