第193幕
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「あけましておめでとう、海」
『おめでとう、近藤さん』
年末の忙しい時期は過ぎ、今は新年明けた一月一日。
世の中は年の始まりを祝している。
そんな中でも海は市中の見回りに行くべく、隊服に腕を通していた。
「海、新年あけたばかりなんだから今日くらいは休んだらどうだ?」
『新年あけてもあけてなくても、俺たちのやることは変わらないだろ?むしろ、正月だからといって浮かれている奴らが多くなる。そういう時にトラブルが起きやすくなるんだよ』
「そりゃそうかもしんねぇけどよぉ」
警察の仕事に休みはない。例え祭日だろうが、海のやることは変わらない。いつもと同じように見回りをし、書類をまとめる。その繰り返しでしかない。
望んでそれを選んだわけではないけれど、そうなってしまった以上はやるしかないのだ。
「気をつけてな?何かあったらすぐに連絡するんだぞ?」
『ん、わかってる。それじゃ行ってきます』
「行ってらっしゃい!」
屯所の門の前で近藤に見送られながら海は外へと出た。冬の冷たい風が全身へと吹き付け、海はぶるりと身体を震わせた。
『上着着てくればよかったか』
隊服だけでは寒くて凍えそうだ。
歩き回っていれば身体が温まってくるだろうと思っていたのだが、温まるまでがとてつもなく寒い。ここは我慢しないで上着を取りに行くべきか。それとも身体が早く温まるように少し走ってみるか。
『帰ってくる頃にはどうせ脱いでるんだよな……それならいらないか?』
歩き始めの一時間くらいを我慢すれば、上着なんて必要なくなる。後で荷物になるくらいなら。と海は屯所に戻ることなく町へと早歩きで向かった。
「ま、待って!!兄さん!」
『うん?朔夜?』
歩く速度を上げた時、後ろから弟の声が聞こえた。その場に立ち止まって朔夜の方へと振り返って見ると、海のコートを手にしてこちらへと走ってきていた。
「そんな格好じゃ寒いだろうからって。近藤さんが」
『あぁ、確かに』
「確かに。じゃないよ!風邪ひいたらどうするの!?」
『歩き回ってるうちに温まるだろうと……?』
「その後に身体が冷えて風邪ひくんだよ!!」
早く着て!とコートを押し付けられ、海は苦笑いを浮かべながらコートを着た。
「これから見回り?」
『おう。正月だからな。気をつけねぇと』
「正月だから馬鹿なことしないんじゃない?」
『逆だ。正月だからこそ浮かれて気が緩む。初詣に来た人がひったくりにあったり、お年玉を手にした子供が狙われたりするんだよ』
「お年玉?」
朔夜は何それ?と言いながら首を傾げる。
『知らないのか?』
「わかんない。何それ?」
子供にとって正月といえばお年玉となりそうなものを。本当に意味がわからないという顔の朔夜に海は無表情になってしまった。
「兄さん……?」
『いや、なんでもない』
朔夜はあの男に何も教えてもらえなかったのか。かつての自分と同じように。
もうアイツが朔夜に関わることはないだろう。ならば自分が父親代わりになってやらねば。
不思議そうにこちらを見つめている朔夜の頭をくしゃりと撫でた。
『お年玉っていうのは──』
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