第192幕
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『贈り物?』
海の問いに"それ"はこくりと頭を縦に振った。
突然そんなことを言われても困る。困るというか……なんでそんな話が出てきたのか詳しく聞きたいものである。
「ピィ」
『お前、鳴けたのか』
机の上でバサバサと翼をはためかせているのは、いつぞやの鳥。野生では滅多に見ることのない綺麗な青色の羽を持つ鳥は嬉しそうに何度も羽を動かした。
鳥が海の元に来たのは先程の事だ。
いつものように自室で書類と睨めっこしていたところにこの鳥が来た。外から聞こえてきた鳥の鳴き声。そんなことは日常的にある事なので気にもしていなかったのだが、何故かこの日はやけに鳥の鳴き声が大きく聞こえた。
それでも海は外に出て確認するわけもなく、ただひたすらに書類に目を通す。いつの間にか鳥の鳴き声はやんでいて、あぁやっとどっか飛んで行ったかと思った時、ズボッ!という聞きなれない音が耳に入った。
音の方へと目を向けると、障子に頭を突っ込んでいる鳥が目に入る。鳥はじっと海を見つめたかと思ったら、障子を突き破って海の部屋へと侵入してきた。
あまりにも唐突なことだったので、海は飛び回っている鳥を呆然と眺めることしか出来なかった。鳥は海の頭の上を旋回した後、机の上に降りてきた。
書類の上をとてとて歩く。持っていた筆を数回つつかれ、そこで漸く海は我に返った。
『おい……お前……』
何勝手に入ってきてんだ。と思いながらも口にはしなかった。もしかしたら迷い込んできてしまったのかと思ったからだ。自分の巣の場所が分からなくなった鳥が障子を突き破って海の部屋に入ってきてしまった。
そんなこと普通有り得ないだろ、と思いつつも現に鳥が自分の部屋に迷い込んできてしまっているのだから有り得ない話でもないのかと一人納得した。
『ここはお前の巣じゃない。戸を開けてやるから自分の巣へ帰んな』
机の上で首を傾げる鳥に声をかけて立ち上がる。穴の空いた障子を見て小さくため息を零し、海は戸を開け放つ。
だが、いくら待てども鳥は海の部屋から出ようとしなかった。鳥を追い出そうとしたのだが、海の手をふらりふらりと避けてはまた机の上に戻ってしまう。
どうしたものかと悩み始めた海に鳥は小さく鳴いた。その鳴き声は先程まで聞いていたものと似ている。
『まさかとは思うが……お前わざとこの部屋に入ってきたのか?』
机の上にいる鳥に目を向けると、鳥の方も海の事を見つめていた。目が合った瞬間、青い瞳が赤く変わり、そして海の中へと流れ込んでくる映像。
それは見覚えるのあるものだった。だいぶ前に結野アナの占いが一時期外れてしまうという事があった。原因は結野衆と巳厘野衆の争いのせい。その問題は銀時が間に入ったことによって収束したのだが、なぜ今になってそんな記憶が呼び起こされたのか。
一連の記憶が海の頭の中を駆け巡っていく途中、ちらほらと映ったものにハッとなった。
『あの時のやつか!』
そこで漸く鳥のことを思い出すことが出来た。結野アナの一件の時、海は護身用にと借りていた式神がいた。それは四神の一つである朱雀。全てを思い出した海に朱雀はひと鳴きすると、ばさりと翼を広げて海の肩へと飛び乗ってきた。
それが数分前のことだ。
なぜ自分の元に来たのかと問うと、朱雀は結野アナにプレゼントがしたいのだと言った。というか、そう聞こえた。言葉が話せるわけでなく、普通の鳥のように鳴いているだけなのだが、海には人の声のように聞こえる。これも四神の力なのか。
『でもなんで急にプレゼントを?そもそも、外に出てきて大丈夫なのか?』
結野アナでも召喚するのに手こずるという高位の式神。そんなやつがプレゼント一つのためにひょこひょこ出てきて大丈夫なのか。むしろ、実体を出さない方が結野アナにとってはプレゼント……というか、楽なのではないだろうか。
「ピ」
『あ?半契約したまま?』
目を丸くした海に朱雀はまた小さく鳴いた。
どうやらまだこの朱雀と海との契約は有効で、結野アナの力はさほど使っていないとのこと。それならば自分に負担が来るのではないと思ったが、今のところ自分の身体には変わったところはない。初めて朱雀を召喚した時は身体に重石を付けられたような感覚があったのに。あの時はその場から動けず、意識を飛ばさないようにしているので精一杯だったはずだ。それが何故。
『もしかして省エネモードとかあるのか?』
「キュ?」
『式神ってよくわかんねぇな』
術者に負担がかからないように式神が気を遣うなんてことがあるのだろうか。召喚されて無理やり使役されている彼らが呼び出した人間の事を考えて、力の制御をするなんてことが……。
『確か色が変わった時に……』
初めて朱雀を呼び出した時は燃えるような赤色だった。それが今では空のような青さに変貌している。
海の力によって朱雀は姿を変え、術者に合わせていた。色が変わった時、海に降りかかった圧は半減され、朱雀を使役することが出来たのを思い出した。
どうやら朱雀が海のことを気にしているという考えはあながち間違えではないらしい。
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