第190幕
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鉄筋を折っている間に聞こえてきたのは、土方が佐々木へと向けた手紙。鉄之助が立派な男になったらもう一度迎え入れてくれないかという願い。
今はまだ弱く、何も出来ないヤツだが、いつか必ず強くなって一人でなんでも出来るようになったら。ただのお荷物の鉄之助でなくなったら。その時はどうか鉄之助の事をちゃんと見てやって欲しい。そう思って土方が宛てた手紙。
それは佐々木の心に届くことなく無惨に散った。
『いつまで続ける気だよこんなこと』
鉄之助を認めない佐々木と、いつか強くなって立派な侍になろうとしている鉄之助。そしてそれを見守っていた土方。
いつまでこんな茶番を続けるつもりなんだ。もういい加減うんざりだ。
『こんなこと早く終わらせて……帰る……』
そしたらまたいつもの朝が来るんだ。書類に追われて忙しくなる日々が。総悟と朔夜がバカをして土方がキレ散らかし、それを近藤が宥め、鉄之助がハラハラした顔で土方を止める。
そんななんでもない日常が。いつもの風景が戻ってくるというのなら。全て殺──
「海、」
鉄筋がもう少しで折れるという所で銀時に止められる。腹部に回った銀時の手は優しく海のお腹を撫でた。
「癖、出てる。あいつらなら大丈夫だよ」
大丈夫だから落ち着きなさい。耳元で呟かれた言葉に段々と荒ぶっていた気分が落ち着いてきた。
鉄筋を握りしめていた手を離す。鉄の独特な臭いがして目を細める。最初こそは自分の意思で鉄筋を折ろうとしていたが、傷ついていく土方と、土方の思いを無下にした佐々木への怒りで、わけがわからなくなっていた。
「落ち着いた?」
『ん、悪い』
「いいよ。それよりも下が騒がしくなってきてる」
『下?』
「ドタバタドタバタと走ってきてる音がねぇ。さっきからうるさくてかなわねぇ」
土方と佐々木のやり合いの間に佐々木は部下たちに命令を下していたのだろう。自分が土方を抑えている間に攘夷浪士も鉄之助も殺せと。
「ここはなんとかすっから、ちょっと海は下に行っててくんねぇ?」
『下?』
「そ。後ででっかい荷物落とすわ」
『荷物?なんだよそれ』
「いいからいいから。どうせゴリラとか来てんだろ?そっちに合流しとけよ」
ドンッと背中を押されて階段の方へと向かうように指を差される。早く行けと言わんばかりに手でしっしっと追い払われた。
『何が大丈夫なんだよ』
さっき海が攘夷浪士を捕まえようとした時は止めたくせに、自分が暴れるのはいいのか。ぶつぶつと文句を言いながら海は下へと降りていく。
『大体、なんで銀時がここに居るのかも、攘夷浪士たちに手を貸してたのかも知らねぇし』
後で説明するという約束もまだ果たされていない。聞くよりも先に海が動き始めてしまったというのもあるが。なんでもっと早く教えてくれないんだ。
なんだか自分ばかりが銀時に抑えられている気がしてならない。勝手なことばかりしているのは銀時の方じゃないのかとむくれた時、銀時が人の話を聞けと言っていたのを思い出して足を止めた。
『あ、俺も勝手なことしてるわ』
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