第190幕
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髪がさらさらと流れる。風が強いせいなのか、それとも誰かに髪を弄られているのか。
まだ眠いから寝かせてくれ、と頭を両手で抱えて縮こまる。うんうん唸りながら頭を横に振ると、すぐ近くで誰かが微かに笑った気がした。
「寝かしてやりてぇのは山々だけど、今は起きて欲しいなー、海くん」
『や、』
「うん。可愛いね。寝惚けてる海可愛いね。このまま寝かしつけたいけど、むしろ襲いたくなるけど。海、起きて」
ゆさゆさと身体を揺さぶられて無理矢理起こされる。ゆっくりと意識が浮上し、少しだけ目を開けた。真っ先に見えたのは銀時の柔らかな笑み。
あぐらをかいている銀時の足の上に座らせられ、胸によりかかるようにして眠っていたのだと気づいた途端、顔が熱くなった。
「起きた?」
『……ばか』
「おはよう、海」
『ばか』
「寝かして欲しかった?」
『ばか』
銀時の問いに一切答えず、海はひたすらばか、ばかと呟く。寝ていた状態が恥ずかしかったというのもあるが、無理矢理起こされた気分はかなり悪く、目の前にいる銀時をキッと睨んでからふいっと顔を逸らした。
「分かるけどね!?眠いとこ叩き起されるの辛いことわかるけど!そんなガキみたいな反応やめてくんない!?」
ギャンギャン騒ぐ銀時を放置して海は意識を変えるように周りを見やった。
空はもう暗く月が出ている。海が気絶してから大分時間が経過しているのだろう。周りを見渡して見ると、そこは高い建物の屋上らしき場所。少し離れたところには、鉄之助を襲っていた攘夷浪士たちの姿があった。
『鉄之助は?』
「人質になってる。今すごくめんどくさい事になってんだよ」
『めんどくさいこと?』
「そ。真選組と見廻組でドンパチさせようって話」
『両方とも潰そうってか』
「そうらしいよ。そう上手くいくとは思わねぇけど」
『土方たちは?』
「下にいる。何人かはこの廃ビルに潜入してるみてぇだけど」
『そう……なら俺も動かねぇと』
鉄之助を助けるために土方たちが動いている。きっと海の事も助けようと。見廻組と対立してしまう前に早くこの状況をどうにかしなくては。
そう思って腰を上げたのだが、グイッと腕を強く引っ張られたせいで体勢を崩し、また銀時の足の上へと座り込んだ。
『おい……』
「海、お前今どういう立場が分かってる?」
『攘夷浪士どもを捕まえるのに絶好な場所にいる人間』
「違うだろ。お前は今人質なんだよ」
人質の単語に海は首を捻る。自分のそばにいるのは銀時一人だけ。攘夷浪士たちは鉄之助にしか興味が無いのか、海には目もくれず背を向けている。それなら鉄之助を引っ張り出して全員捕まえることくらい容易である。
なんせこちらには銀時もいるのだから。
『何が言いたいんだよ』
「海は人質なんだよ、俺の」
『は……?』
「攘夷浪士どもの人質じゃなくて、元攘夷志士、白夜叉の人質ね」
にこりと笑う銀時に海は目を見開いたまま固まった。
『銀……?』
何をするつもりなんだと聞こうとしたが、海の耳に隊士たちの声が聞こえて我に返った。
「あらら、海の上司やられちゃったね」
『ひじ、かた?』
土方を心配する隊士たちの声。そして攘夷浪士たちが目の前で起こったことに驚く様。
『嘘だろ……まさかアイツ!!』
銀時の腕の中から飛び出ようともがいたが、絡みついた腕はなかなか外れず殊更強くなった。
『銀時!離せ!』
「今飛び出して海に何ができるんだよ。刀、どこにあるの?」
言われて気づいた海はいつも刀を添えている腰へと手を伸ばす。あるはずの物がそこに無い。
『銀、刀を返せ!』
「俺じゃないよ。海をここに連れてくるまでの間にアイツらが捨てちゃったから」
ここにはない。その事実だけが突きつけられて、海は舌打ちを零す。刀がないなら手近にあるものでいい。さっき目に付いたむき出しの鉄筋を折れば武器になる。
『もういい。お前に頼ろうとした俺が馬鹿だった』
「頼ろうとしてくれたのは嬉しいけど、もう少し海は人の話聞きなさいよ」
そんな話聞くまでもない。銀時を強く睨みつけ、自分の腕を掴んで離さない手を蹴りつけた。
「海」
『うるせぇ』
鉄筋をへし折るために両手で掴んで力を入れる。鉄がそんな簡単に折れるものではないと知っているが、それでもやるしかなかった。
銀時に突き放されてしまった辛さから逃れるために。
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