第190幕
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「ご苦労様です。お互い大変ですね」
ピシッと敬礼をこちらに向けてきたのは、部下を連れ立っている見廻組局長、佐々木 異三郎。
「あんな出来損ないのためにこんなところに駆り出され、挙句の果てにはそちらさんの大切な副長補佐である桜樹さんまで巻き込んでの騒ぎになるとは」
「お前、知ってたのか。あいつと攘夷浪士の連中との繋がりを」
鉄之助は攘夷浪士と接点があった。それが分かったのは海からの電話のおかげだった。海が拉致される瞬間の会話と、鉄之助がかつての仲間らしきヤツらに連れていかれている物音。
何度も海に向けて声をかけたが、土方の声に海は返事を返すことなく通話が途切れた。きっと通話に気づいた誰かが携帯を壊したのだろう。
また自分の知らないところで厄介なことに巻き込まれている。海を見つけたら説教をしてやる、という気持ちと、怪我をしていないだろうか、早く保護して安全な場所へ連れて行きたいという思いが渦巻いた。
自分よりも頭がキレて、剣術も体術も上手なはずなのに簡単に拉致られる海に呆れも少々。
「身分を隠してちょくちょく出入りしていたようですね。行き場のなかったあれには丁度いい居場所だったのでしょう。金回りがいいせいか、頭目の厭魅眠蔵にも随分と可愛がられていたようですしね。しかし日増しに過激になっていく組織と、警察の縁者であることが露見するのを恐れ逃げ出した。結局、あれの居場所はどこにもなかったというわけです。まぁ、結局、最悪な形でバレてしまったようですがね。見廻組局長の弟、そして真選組副長の小姓。これを握れば、江戸最強の警察組織を一気に二つ潰せる。フッ……とんだ見当違いですよ。真選組と見廻組、両局長の首があの軽い首と等価だとでも?」
ベラベラと御託を並べる佐々木。全部聞き終えたことろには、土方のこめかみに薄らと青筋が浮かんでいた。
そして、佐々木に怒りを感じていたのはどうやら土方だけでなく、土方の後ろ。総悟の隣に立っていた朔夜からも怒気を感じた。
「朔夜、お前その殺気隠しなせェ」
「……なんであの人、自分の弟のことを"あれ"とか"それ"っていう呼び方するの」
ぼそりと聞こえた朔夜の声に怒りと悲しみが入り交じっていた。
「兄さんはちゃんと名前で呼んでくれるよ。あんな呼び方じゃない。確かに、僕が居ないところとかでは"あいつ"とか"こいつ"とかって言われたりしてるけど、あの人みたいに物みたいな言い方はされた事ない。あの人は自分の弟をなんだと思ってるの?」
兄を持つ弟としての素朴な疑問。どうして?なんで?を繰り返す朔夜に、横で黙って聞いていた総悟が困り果てていた。
それは佐々木が鉄之助を弟として見ていないから。ただのお荷物という認識しかしていないのだ。そう言って理解してもらえるかは難しい。そんな言い方をすればなおのこと朔夜はなんでだと問いかけてくるはずだ。
「(ほんとに。十人十色とはよく言ったもんだな)」
煙草の煙を吐きながら、土方は後ろで控えている朔夜の方を振り返る。佐々木を睨むように見ていた目が瞬時に柔らかくなり、朔夜を包んでいたどす黒い雰囲気も消えた。
「あの局長のことは気にすんな。今は海の奪還作戦だけ考えてろ」
「は、はい……!」
海がよく朔夜を励ます時にやるように、土方は朔夜の頭をわしゃりと乱暴に撫でた。海とは違う撫で方に朔夜は戸惑いつつも、大人しく撫でられていた。
「ったく、めんどくせぇ兄弟喧嘩しやがって」
きっと、海ならこういって悪態ついているだろう。
そう思ったら幾分か気分がスッキリした。
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