第189幕
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翌日、いつものように自分の部屋の布団の中で目覚めた海は、瞬時に土方がここまで運んでくれたのだと悟った。
道場の前で読んでいた本は机の上に置かれており、その横には何故かおにぎりも置いてあった。
『誰がこれを……?』
おにぎりが置いてある皿には卵焼きとたくあん。そして数個のからあげがあった。もしかして寝てしまった海の為に夕飯を置いといてくれたのか。
土方が?
起きたばかりでふわふわしている頭で考えてみたが、これを用意したのは土方ではないだろうと至った。いつだったか、土方が海に夜食を持ってきたことがあった。その時の量のことはよく覚えている。海が普段食べている量を考慮した土方は、どでかい丼で持ってきたのだ。
「お前はおにぎりなんかじゃ足りねぇだろ」と呆れた顔をしていたのは昨日のように思い出せる。自分の食を知っている土方ならこの量では足りないことは知っているはず。
『なら誰だ』
誰に問うでもなく口から零れた。屯所にいる人間が用意したのは間違いないだろう。それなら毒などを心配することは無い。別に気にする事はなんもないのだが、なんとなく気になってしまい、結局海はそれに手をつけずに部屋を出た。
誰が用意したものなのか判明したら口にしようと。
『今日も騒がしいな』
廊下に聞こえてくる鉄之助の声。そしてそれを断り続けている土方の声。その二つの声を聞いた海は口元に笑みを浮かべた。
随分と土方に懐いたものだなと思いながら、海は副長室の襖を開けた。
『土方、書類』
「あ?あぁ、海か」
「副長補佐!おはようございます!ゆっくりお休みになられましたか?」
『おはよう。ちゃんと寝たから心配すんな』
目を輝かせてこちらを見てくる鉄之助はさながら犬のよう。あるはずのない犬耳と忙しなく振れているしっぽが見えた気がした。
「お前、少しは黙っていられねぇのか!」
「え?あっ、すみません!自分、喋りすぎでしたか!?」
「そこらの女子供みてぇに騒ぐなって言ってんだよ」
「す、すみません……」
土方に一喝された鉄之助はしゅんと項垂れる。耳が垂れ、しっぽは元気なさそうに床にぺたりと落ちて……。
「副長補佐?」
『ん?』
「海……お前何やってんだ?」
鉄之助と土方に声をかけられて我に返る。しょげている鉄之助の頭に海の右手が乗り、よしよしと撫でていた。
『……は?』
「いや、こっちが驚いてんだが……」
なんでこんな事をしているんだ?頭に手を乗せられたままの鉄之助は目を丸くしている。海は慌てて鉄之助の頭から手をどかして一言謝った。
『悪い。つい、』
「ついでこいつの頭撫でるのかよお前は」
「副長補佐?まだお休みになられたほうがいいんじゃないんですか?ご飯食べましたか?すぐ食べられるようにとおにぎりを置いておきましたが食べれましたか?」
心配そうに海を見てくる鉄之助に大丈夫だと首を横に振る。思わぬ所でおにぎりの出処がわかった。あれは鉄之助が海を思って用意してくれたものだったのか。誰が持ってきたものなのかが分かれば身構える必要は無い。
『起きてすぐにここに来たからまだ手をつけてない。部屋に戻ったら食うわ。ありがとな』
持っていた書類を土方に手渡し、海は副長室を後にする。
自分の部屋に戻った海は机の上に置かれたままだったおにぎりに手を伸ばしながら次の書類へと取り掛かった。
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