第189幕
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「旦那、お勤めご苦労様で」
自動ドアを抜けた先にいたのは海と同じ職場で働いている小生意気な子供らだった。
片っぽは面倒くさそうな顔をして形だけの労りの言葉を吐き、もう片方は銀時と自分の上司である総悟を交互に見やる。
そんな二人に銀時は無言で腕を振り上げる。その手首にはまだ外されていない手枷。手首から垂れている鎖の先には重たい鉄球がついており、それを総悟にぶつけようと振り回した。
「ひでぇな、旦那。わざわざ釈放手続きしてあげたのに」
「へぇ、そうなんだ。でも、逮捕までしたのも君たちのようなもんだよね」
細かくいうなら"海が"であるが。
変なグラサンに絡まれた後、海に殴られて気絶している間に何があったのか。目が覚めた時には自分は何故か留置所にいたし、取り調べではやってもいないような事を散々追求された。あの場にいた真選組副長とその補佐に暴力を働いたと。
副長の土方にならわかるが、まさか海に手を出すなんて有り得ない。手を出すなら違う方法でする。それは取り調べでは言えないけれど。
「そりゃ、土方さんと海さんでしょ。俺にゃ、罪はありませんよ」
「うん。俺もないけどね!」
再度、鉄球を総悟の顔面に向けて飛ばしたが、鉄球は総悟の顔に当たる前に粉々に砕け散った。
「総悟!」
「なんでィ」
「あの人って……」
すっ、と朔夜が指差した方へと目を向ける。そこには白い隊服姿の男。取り調べにも何度か顔を出していたのを覚えている。名前は忘れたが。
「どうか真選組を責めないでいただけますか。責任は全面的に当方にありますので。申し訳ありませんでした。まさか真選組のご友人でいらしたとは。一体、どうお伝えしたらいいか分からないので、メアド教えてもらえますか?一日中、長文謝罪メール送りつけるんで」
白服の男は胸元から携帯を取り出して銀時がメアドを教えてくれるのを待っている。だが、銀時に携帯なんてあるわけもない。銀時の持っている電話といったら、事務所兼自宅にあるあの黒電話だけ。
「じゃあ……クタバレエリートアットボコモドットエヌイードットジェイピーで」
「しかし、鼻はドーベルマン並の自信があったのですがね。あなたからは確かに深い業の香りがしたのですが……あの人のように」
銀時に言われたアドレスを素直に打ち込んでいる男を冷めた目で見つつ、あの人という存在について疑問が沸いた。
「(……誰のこと言ってんだ?)」
業の深いという意味はきっと昔のことに関連するような事だろう。それはなんとなく察したからスルーしたが、この男の言うあの人とは一体誰を指しているのか。
かちかちと携帯を操作しながら何やら嬉しそうに笑う男。気味の悪さは100点満点。きっと海だったら眉間に皺を寄せて男から離れようとするだろう。
昔から海は態度に出やすい。特に嫌いな相手に対しては。体全体で意思表示してしまうところは見ていて可愛らしいが。
「おや、まだ返ってきませんね」
「は?」
「メールですよ。とある人とメールをしているのですが、中々返ってこないんですよ。やっと返信が来たかと思ったら"いい加減くたばりやがれ、クソ野郎"ですし」
「……はぁ」
どうしたものやら、と悩む男に銀時は気の抜けた返事をした。局長という人間はどこにいっても癖の強い奴しかいないのだろうか。真選組といい、目の前のこの男といい。
そうじゃないとやっていけないのか。立場上、そう見せないといけないのか。いや、そんなことは無いだろうな。こいつらが癖強すぎるだけだ。そう結論づけた。
「(それにしても……海みたいな返し方だな)」
携帯の画面をじっと見つめて首を傾げる男。メールが返ってこないことを本気で悩んでいるのか。返ってこないということは脈ナシなのだと気づかないのか。
うちの海ならきっと携帯ごと破壊してそうだ。そう思ったら思わず笑みが零れてしまった。
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