第188幕
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書類を手にしながら海は自室へと戻った。部屋の襖を開け、中へ入ろうとした瞬間に土方の動向を探る。横目で一瞬しか見えなかったが、海にはそれだけで十分だった。
『あいつも部屋に戻ったな』
土方も海と同じように自分の部屋へと戻った。それを確認してから海は弟の元へと向かった。
『朔夜、いるか?』
朔夜の部屋に行くまで誰ともすれ違うことなく、ひっそりと来た。これから朔夜に頼むことは、後々になってめんどくさい事になりかねない。特に犬猿の仲とも言える土方の耳にでも入ろうものならまたぶつくさと文句を言われることだろう。
「どうしたの?」
ゆっくりと襖が開けられ、中から不思議そうに海を見つめる目と目が合う。部屋の中から墨の匂いがして、朔夜も書類に手をつけていた事が窺い知れた。仕事の邪魔をしてしまったか、と思ったが、こればっかしは仕方ない。
『頼みたい事があるんだがいいか?』
「頼みたいこと?なに?」
『見廻組に捕まった銀時の釈放手続きしてくれないか?俺じゃ何かと言われそうだからよ。あいつが捕まったのは俺のせいだし。冤罪かけられてそのままってのも可哀想だからさ』
「僕で大丈夫なの?それって近藤さんとか役職ついてる人の方がいいんじゃ……」
『それはそうなんだけどな……』
本来ならば自分が行って手続きをしたいところなのだが、見廻組の局長に会うのを避けたい。佐々木から感じた気味の悪さがどうも受け入れられず、あの顔を見るのも嫌になってしまった。
「行きづらいの?」
『ちょっとな。見廻組の局長には会いたくないんだわ』
「あー……土方さんの小姓のお兄さんだっけ」
『あぁ。この間、たまたま会ってな。あのタイプは生理的に無理だ』
その時のことを思い出して渋い顔をする海に朔夜はきょとんとしてからクスクス笑い始めた。何が面白いんだという目で見ると、朔夜は笑いながら謝った。
「ごめんごめん!兄さんがそんなに嫌がるのも珍しいなって思ってさ。嫌いな人がいてもそんなあからさまに言葉にはしないからさ。だから、どんだけ嫌な人なんだろうって想像したら笑えてきちゃって」
『どんな想像だよ……』
朔夜の中で思い描かれた人物について詳しく聞きたいと思いつつ、海は話を振り出しに戻した。
朔夜に銀時の釈放手続きに必要な書類を持たせ、屯所から出ていく朔夜の背を見送る。これで銀時は自由になるのだと思ったら、胸の内にあった蟠りは消えた。
『ごめん、銀。遅くなって』
本人に会ったらちゃんと謝ろう。今はこれで我慢。
門の前で一人呟いた海は誰かに見つかる前に部屋へと戻った。
そんな海の姿をひっそりと見ていた人物が居たとは露知らずに。
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