第188幕
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おい、聞いたかよ。副長と補佐が見廻組と一悶着起こしたらしいぜ」
「え、副長補佐が?」
真選組屯所、喫煙所にて二人の隊士が煙草を片手に先日起きた事についてひそひそと話し込んでいた。
「あぁ、補佐らしくねぇよな。いつも間に入って事を収めようとすんのによ」
「だな。あの人も疲れてるんじゃね?副長の世話に、副長の小姓の世話で」
「ありゃオカンみたいな感じだもんな」
二人が思い浮かべたのは、土方を叱りつける海の姿。その姿はどう見ても悪ガキ相手に怒っている母親のようなもの。二人はそんな海を思い出して一頻り笑った。
「でも、なんで見廻組と?あそこも近頃話題になってるだろ」
「さぁな。なんでそんな事になったのかは知らねぇけど。大方、副長の小姓になったボンクラのせいだろ」
「あぁ、あいつか。また厄介なもん引き取っちまって。副長がアイツのすること黙認してっから、最近補佐の機嫌がすこぶる悪いじゃねぇか。この間、見たか?補佐が見回りから帰ってきた時の」
「見回りから?」
「あの鉄之助とかっていうやつ連れて見回り行ったらしいんだけどよ、すっげぇおっかない顔して帰ってきたんだよ。何事かと思ってこっそり覗きに行ったらよ……」
「な、何があったんだ?」
「携帯踏みつけてぶっ壊して池に投げ捨ててた。ありゃもうやべぇよ」
ぶるりと身体を震わせた隊士の顔は真っ青。それを見たもう一人の隊士もつられて顔が青ざめていった。
「そろそろ限界なんじゃねぇか?あの人」
「早くアイツどっかにやらねぇと補佐の身がもたねぇよ」
そう言って煙草の灰を落とした時、二人の前に鉄之助が立っていた。慌てて煙草を灰皿へと捨て、背筋を伸ばす。先程まで鉄之助の陰口を言っていたせいで気まずい。
鉄之助は二人をじっと見つめたまま、くちゃくちゃとガムを噛む。どちらも一言も発さず、ただしんと静かな喫煙所にガムを噛む音だけが響いた。
その沈黙を先に破ったのは鉄之助だった。
「失礼します、先輩!大変お手数おかけしますが、ちょっとそちらの自販機使わせていただけないでしょうか!」
綺麗に直角になるように下げられた頭。普段見ていた怠けからは到底想像しえない礼儀に隊士二人は口を開けたまま固まった。
「申し訳ありません。至急、煙草を調達する任務を副長よりおおせつかりまして。ええと……マヨセンのライトだったな。あれ?メンソールだったっけ?あっ、いや、待て。確かメンソールは吸いすぎるとインポテンツになるという都市伝説があったはずだ。副長をインポテンツにするわけには……いや、待て、そもそも煙草は肺気腫を悪化させる危険性を高めるうえ、その煙はあなたの周りの人、特に乳幼児、子供、お年寄りなどの健康に悪影響を及ぼすぞ。副長をインポテンツの肺気腫の殺人者にするわけには。副長補佐を殺させるわけには!!」
煙草の自販機の前で頭を抱えて唸る鉄之助をただひたすら眺める隊士たち。一体、こいつはどうしたんだと互いに疑問を持ちながら顔を見合わせるが、考えてみても答えはわからず、じっと見つめることしか出来ない。
「ハッ!そうだ、煙草の代わりにアレを買っていけば!インポテンツを防げるうえ、副長も元気になるぞ。いや、待て、しかしこれも子供に悪い影響が!副長補佐の目に入ったら、副長に対する意識が変わってしまう!待て、それとも逆か?副長の部屋にコレが置いてあるのを見て嫉妬するのでは?それか欲求不満なのだと知って、副長補佐が副長と──」
「てめぇは一体どんな妄想繰り広げてんだ!!」
エロ雑誌の販売機の前でも唸り声をあげていた鉄之助の後頭部へとめり込む土方の足。鉄之助は販売機の中へと頭を突っ込んで黙った。
.