第187幕
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『うるせぇ……もうインカム切ろうかな』
走行中にも聞こえてくるジャカジャカ音に海の苛立ちは募るばかり。もういっその事、後ろからパトカーをどついてやろうかと思うほどだった。
『土方』
"あぁ?なんだ?"
『それうるせぇ』
"……待ってろ"
やっとインカムを切ってくれるかと思ったが、そうではなかった。土方は鉄之助に音量を小さくしろと注意した。素直に応じない鉄之助に土方が軽くキレて、無理矢理音量を下げた。
『これで静かに──』
"もうてめぇには、ここしか行き場がねぇんだろ?"
不意に聞こえてきた土方の声に海は言葉を飲み込んだ。
好き勝手にやっている鉄之助の身の振り方について話し始めた。その話は余りにも優しくて、土方らしい諭し方。
『(ほんとに、うちの副長はお節介が過ぎるな)』
鉄之助が今までどれだけたらい回されてきたかは知らない。家族に見放された時点で彼の中では何かが切れてしまったのかもしれない。
たらい回されているうちに擦れてしまった。いや、擦れざるを得なかったのか。
『それもそれでまた可哀想なもんだけどよ』
"あ?なんか言ったか?"
『なんでもない。つか、おい。あのバカはなに一般人に喧嘩売ってんだよ』
気づけば鉄之助は並走している原チャリに対して喧嘩を売っていた。パトカーの後方からでは原チャリの相手は見えない。きっと嫌そうな顔をしているだろう。
『止めろ。またクレーム来るだろうが』
"こっちだって必死に止めてんだよ!お前も止めろよ!"
インカムから聞こえてくるのは鉄之助のよく分からないラップ。本当にいい加減にして欲しい。ここは○プノシ○マイクの世界ではない。そろそろ山田○郎に謝れ。
『ったく……。おい、鉄之助!一般人に対して喧嘩を売るな!』
「なんだyo!お前もやるのかyo!」
『その耳障りな言い方やめろって言ったよな?てめぇの頭は鶏か?あ?三歩歩いたら忘れるタチか?だったら全て忘れさせてやろうか??あ"ぁ"!?』
「ヒッ」
バイクを右側に寄せながら鉄之助へと怒号を飛ばす。無意識に殺気まで飛ばしてしまったらしく、こちらを見た鉄之助は怯えた顔で海を見た。
「なに?今日はやたら不機嫌じゃん?ってか、お前、なにそのかっこいいバイク!」
『は?なんでここに?』
信号が赤になりパトカーが止まる。同じように隣にいた原チャリも止まりこちらを振り向いた。驚いた顔を向けてきたのは銀時。
「なに?いつからバイクなんか乗ってんの?」
『今日初めてだけど』
「ダメ。バイクなんて危ないからやめなさい」
『なんでそんな事言われなくちゃいけねぇんだよ』
「乗るなら車にしとけって。事故にあったらどうすんだよ。車なら多少なんとかなるかもしんねぇけど、バイクじゃ守ってくれるもんねぇだろうが」
原チャリをそのままに銀時は海の元へと近寄ってヘルメットを外そうと手を伸ばしてくる。その手を振り払い、海は銀時から逃げるように身を傾けた。
『バイクが危ないんじゃねぇよ。バイクに乗ってるヤツの運転が危ねぇんだろうが。安全運転すれば大丈夫だろうが』
「全人類が安全運転してると思うなよ?お前が気をつけてても相手はそうじゃねぇ時もあんだよ。最近うるせぇだろうが。煽り運転とかなんだとかって。それにお前が巻き込まれたらどうするんだよ。もし……もし、車なんかに追突されたりしたら」
怪我をするだけならいい。もし、事故で死んだりしたらどうするんだ。と苦しげに呟いた銀時に海はそれ以上何も言えなくなった。
心配されているのは分かる。銀時が言っている事は理解出来てる。でも、それ以上にバイクに乗るのが楽しくなってしまっていた。
車にはない爽快感が楽しい。これならもっと早くバイクに乗っていればよかったと思うほどに。
「海、俺の言いたいこと分かった?」
『わかってる……でも、』
「それでも乗りたいの?」
素直に頷いていいものかわからず、海は銀時から目を逸らして俯いた。銀時も海が何を言いたいのか察したのか、何も言わずに黙り込んでるだけ。
「おい、お前ちょっと過保護すぎるんじゃねぇか?」
二人の沈黙を破るように土方の声が道路に響いた。俯いていた頭を上げて土方の方に向ける。煙草を吹かしながら面倒くさそうな顔をしている土方と目が合った。
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