第187幕
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部屋に戻ってから数時間後。書類と睨めっこしていた海の耳になにやら陽気な曲が聞こえてきた。
眉間に皺を寄せて不機嫌丸出しの顔でその曲を聞き入る。屯所では聞いたこともない音楽。一体、誰がこんな曲を流しているのか。聞くのであればもう少し音量を下げろ。それかイヤホンで聞け、と一言注意しようと腰を上げた。
『おい、うるせぇよ』
「あ?なんだ?」
襖を開けて廊下に出る。すぐ近くであぐらをかいて座っている男へと声をかける。男の手にはラジカセ。そこから流れてくる曲に海は嫌そうな顔をした。
『うるせぇって言ってんだよ』
「あんたこの曲の良さがわかんねぇのかよ」
『良さなんか知るか。聞くならもう少し音量を下げろ』
ジャカジャカと鳴り響く音に海は次第に嫌悪感を露わにしていくのだが、相手はそれに気づいているのか気づいていないのか、盛大な溜息をしてやれやれと首を横に振った。
「ダメだぜ?兄ちゃん。こんなんで耳が痛てぇなんて音をあげてちゃ。ラップはこの世界を救うんだよ」
『黙れ。お前にはヒプノ○スマイ○ねぇだろうが』
「え?ヒプの……え?」
『……ごほん。いいからそのラジカセ止めろ。うるさくて書類に集中出来ねぇだろうが』
海の言葉に首を傾げる鉄之助に咳払いを一つ。再度、鋭い目付きで相手を威圧するように言葉を投げかけると、今度は反抗すること無くラジカセを止めた。
「あんたなにもんだよ」
『あ?ただの副長補佐だ』
それだけ残して海は自室へと引っ込む。やっといつもの静けさが戻ってきたことに安堵し、海は小さく息を吐いた。
土方が鉄之助のお守りに頭を悩ませていると言っていたが、こういう事だったのか。支給した隊服は見事に気崩されている。他の隊士達と共に道場で竹刀をぶつけ合うかと思ったら、よく分からない仲間を引き入れてバスケをしていた。
パトロールに行っても邪魔するだけで何の役にも立たない。
こんな人間を何時まで放置しておくつもりなのか。
『俺ならとっくのとうに追い出してるぞ』
甘ったれ根性の野郎を一から面倒見る気はない。それなら一人、外へと放り出して世の中の厳しさを身をもって知った方が早い。誰かの手を借りて生きていくのが許されるのは子供までだ。大人になってしまえば自分の力で生きていかねばならないのだから。
『……バカなやつ』
土方もそれは知っているはず。なのに鉄之助をここに残して面倒を見ている。近藤に頼まれたということもあるのだろうが、それ以上に何かあるような気がして。
『俺の仕事増やしたら殴るからな。クソマヨラー』
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