第186幕
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「なーにやってんの」
『銀……?』
彼女の手へと渡されるはずだったグラスは銀時の手の中へと収まり、グイッと中の水が飲み干される。空になったグラスを返されて、海は反射的にそれを受け取った。
「こんなところで静かに接客中?こちとらバケモノ共の相手してるってのによ」
あっち見てみろ、と銀時は騒がしくしている方を指さす。その方向へと目を向けると、いつの間にか来ていた西郷とその仲間内であるオカマ。月詠と吉原の女たち。そして九兵衛たちがいた。
先程から雄々しい声が聞こえてくると思っていたが、原因は西郷たちオカマの声だったのかと納得。そして深い溜息をついた。
「な?あんなの相手してたら身体がいくつあっても足りねぇだろ?」
『だからってこっちに避難してくるなよ』
「海だけ涼しい顔して接客してんの狡い」
『狡くねぇ。俺は頼まれたことをやってるだけだ』
銀時から向けられた不機嫌顔に海は首を傾げる。言われたことはきちんとこなしているのになぜそんな目で見られなければならないのだ。
この後に来るであろうマダムの相手を滞りなく済ませるために自分たちが手を貸しているのではないのか。今日は遊びに来たわけではない。"仕事"をしにきたのだ。と銀時に説くと、銀時は頭を抱えた。
「お前のその仕事大好きどうにかなんねぇの?」
『別にそんなに好きなわけじゃない』
「いや、大好きだろ。そう思わねぇ?」
「え、私ですか……?」
突然、話を振られた彼女は目を瞬かせる。海と銀時を交互に見てからふわりと笑った。
「海さんは確かにお仕事好きそうですね。一日だけと言っていても、ホストの仕事をとても真面目にしてますし」
「だろ?アンタからも言ってやってくんねぇ?手伝い出来てるだけなんだからもう少し肩の力抜けってさ」
「ふふ……そうですね。もうちょっと気を抜いてもいいと思いますよ」
うふふ、あはは、と笑い合う銀時と女性客。その光景に胸がチリつく。楽しげに笑っている彼女にホッとしつつも、銀時と自然に話していることに何故か嫉妬した。
そして彼女から柔らかい笑みを簡単に引き出してしまった銀時にも何やらモヤっとした感情を抱いた。彼の性格を考えれば、それは仕方ないことなのだが、自分が出来なかったことをあっさりとやってのけた銀時に羨望とそれ以外の思いが渦巻いた。
『……マダムは』
「まだ来てねぇよ。来る前にアイツら引き上げさせないとダメだろ」
『そう』
「海?」
口から出た言葉は自分でも驚くほど素っ気ないものだった。慌てて口元へと手を翳し、自分の発言に反省し始めていた時、海の頭の上に銀時の手が乗った。
「慣れないことしたから疲れてんじゃねぇの?」
「あ、それなら私そろそろ帰ります」
「え?いいの?」
「はい。とても楽しませていただいたので。海さんがお疲れなのであれば、ここら辺で失礼します」
女性客はにこやかな笑みで立ち上がり、海へと軽く頭を下げる。会計を済まそうとレジへ向かったが、途中で海の方へと振り返った。
「海さん、また機会があったら……」
「ないよ。もうコイツがホストやることなんてないから」
「そう……ですか」
海の代わりに銀時が答え、彼女はその言葉を聞いて寂しそうに顔を歪める。今日はありがとうございました、と最初に会話を交わした時のようにぎこちない笑みを浮かべて帰って行った。
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