第186幕
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「え、じゃあ、いつもは違うお仕事してるんですか?」
『はい。今日一日だけの助っ人です』
普段は見せることのない甘い微笑をしながら海は酒が入ったグラスへと口をつける。女性客は海の横顔をうっとりとした目で見つめており、その視線に気づいた海は目だけを女性に向けた。
スーツに着替えた後、狂死郎のもとへ戻ると、早速客がつけられた。てっきり裏方の仕事をすると思っていたものだから、突然の接客に海は狼狽えてしまい、エスコートされるであろうと思っていた女性客から不審な目で見られてしまった。
「すみません!桜樹さんにしか頼めなくて!」
小さく頭を下げて狂死郎はちらりと入口の方を見やる。狂死郎の視線の先には、土方たちが揉めているのが見えた。あぁ、アレでは接客なんて出来やしないだろう。そう悟った海は女性客へと手を差し出した。
『お手をどうぞ』
「え?あ、はい!」
お待たせしてしまいすみません、と一言謝りながら客の手を取り、入口から一番遠い席へと案内した。ここならばあの喧騒が耳に入らないはずだ。
初めての接客業に緊張し、攘夷浪士を捕まえるときのように頭をフル回転させていたが、どうやらこの女性客もホストに来るのが初めてだったらしく、海のぎこちない話に対して彼女も硬い笑みで返事をしてきた。
『大丈夫ですか?』
「へ?あ、だ、大丈夫です!」
カチコチに固まっている彼女を心配して声をかける。彼女はなんでもないと両手を上げてひらひらと振りながら笑った。
『あぁ、やっと緩みましたね』
「え?」
『ずっと硬い表情をしていらっしゃったので。きっとこういう場が初めてなんだろうなとは思っていたんです。なんせ自分もホストなんて初めてなので』
"互いに初めて同士"というのを伝えると、彼女は驚いた顔で海を凝視した。
「うそ……ホスト初めてなんですか!?」
『今日だけ、ですから。慣れているように見えましたか?』
「緊張はしてたんですけど、海さん凄く気をつかってくれてるから……」
別に気をつかっているつもりはなかったのだが、彼女にはそう見えたらしい。普段の口の悪さを潜め、優しく聞こえる声色と万人受けするであろう敬語を使っていただけだったのだが、彼女にとっては初めてホストクラブに来た客を安心させるための技だと思われていたのだろう。
『ふふ……』
「え、な、なんですか!?」
『いえ、あまりにも可愛らしいことを仰るので。ダメですよ、こんな男に騙されては』
「騙して……るんですか?」
彼女は不安げに海をじっと見つめる。そんな彼女に海はくすりと柔らかく笑う。
『ホストにのめり込んではいけない、という忠告です』
「それはそうかもしれません……でも、海さんなら……」
ほんのりと頬を染めながら海から顔を背ける。その姿はまるで恋をした少女のよう。だが、海は彼女の様子を見て、酔いが回ってきてしまったのか、と勘違いした。
『水飲みますか?』
「え!?お、お水ですか!?」
『顔が真っ赤なので。お酒、あまり強くないのでは?』
グラスに冷たい水を注ぎ、彼女に手渡そうとした瞬間、横から海の手をガシリと掴む手が現れた。
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