第186幕
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狂死郎からスーツを手渡された海はスタッフルームで着替えていた。
隊服を脱いで綺麗に畳む。水色のシャツに腕を通してボタンを留めていた所で、スタッフルームの扉が開かれた。
「ホントにやんのかよ」
『頼まれたからにはやるしかないだろ?』
「海は裏方の方にしとけよ。表は俺らでなんとかすっから」
部屋に入ってきたのは不機嫌顔の銀時だった。
狂死郎から今日だけホストになって欲しいと頼まれたことをさっき銀時に伝えたら、瞬時にダメだと言われた。もう引き受けてしまった事だから断れないと返した海に銀時は歯噛みしてその場を立ち去った。
その後、狂死郎と話しているのを見かけたが、海は気にせずスタッフルームへと引っ込んでしまっていた。
『狂死郎に頼んだのか?裏方に回すように』
「そりゃ……そうだろ……」
背を向けたまま話していた海は後ろにいる銀時の方へと目を向ける。銀時と一瞬目が合ったが、相手が目を逸らしてしまったことによりすぐに途切れた。
『別に裏でも表でもどっちでもいいけどよ』
「俺は良くねぇ」
『お前さ、分かってんの?』
「え?」
自分の言い分しか言ってこない銀時に海は深い溜息をつき、銀時をじとりと睨む。その意味が分かっていない銀時は海の態度に戸惑いの音をあげた。
シャツをズボンの中へと入れ、スーツの上着を手に取って銀時の方へと歩み寄る。目の前に立ち、銀時の目を真っ直ぐ捉えながら海は呆れた顔で呟いた。
『お前が嫉妬してるように、俺も嫉妬してんの。それ忘れんな』
それだけを言い残して海はスタッフルームを出た。銀時だけが嫉妬に苛まれているわけではない。海とてその感情のせいで先程からモヤモヤしたものが胸中にある。
なんとかそれを表に出さないように気をつけているのに、なんで銀時はそれを察してくれないのか。いつもなら何も言わなくても察してくれるのに。
『言わなくても分かってくれるって思い込んでるのが破局への一歩、だったか』
確かそんなような事をテレビで聞いた事がある。言葉にしなくても分かるだろうと勝手に思い込んでいた結果、言葉が足りなくて相手を知らぬ間に傷つけていた、言わなくてはいけない言葉を言わなかったせいで誤解が生まれ、そこから修復不可能なまでの関係になってしまった。
そんな話を昼のワイドショーだかなんだかで聞いた覚えがある。
『……俺だって』
言わないだけで気にはしている。ただ、これをどう伝えればいいのか分からないのだ。普通に嫉妬しているのだと言ってしまえばいいのか。それだと女々しいと思われるのではないだろうか。なら遠回しに伝えるべきか。遠回しに言って理解してくれるのか怪しい。
答えの見つからない問いが頭の中をぐるぐると駆け回る。そろそろ頭がパンクしてしまいそうだ。今は考えるよりも動かなくては。
スーツの上着を羽織って海は狂死郎の元へと戻る。後でちゃんと銀時と話をしよう。自分はこう思っているんだと伝えよう。その方が手っ取り早い。そう結論づけて、海は考えることを放棄した。
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